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日本最南端の診療所より

沖縄県立八重山病院長

知念 清


1 国境の島

青く澄み切った空、エメラルドグリーンの海に包まれながら、私達を乗せた船は最初の赴任地である島へ向かっていた。
私は平成5年に自治医科大学を卒業し、それから2年間は沖縄県立中部病院で初期臨床研修を受け、昨年より波照間診療所に勤務している。
波照間島は有人では日本最南端の島で晴れた日には台湾が見えることもあり、まさしく国境の島である。島の大きさは周囲約14キロ、人口は年々減少し、現在では580人程度の小さな島である。島民の約25%は70歳以上の老人であり、その殆どの方がサトウキビを中心とした農業に従事しているが、農村共通の過疎化と人口の高齢化の問題を抱えている。
波照間診療所は当然島唯一の医療機関でありその役割は大きい。当地に赴任して一年半を経過したが、当診療所の現状と今後の課題について簡単に述べてみたい。

2 波照間診療所

?@診療所の経緯
沖縄県では慢性的な医師不足があり、特に離島では医介補という実際は医師の免許を持たない方の力に頼らざるを得なかったが、当地では10年前より自治医大生が赴任するようになって解消されてきた。現在は医師一人看護婦一人、事務職員一人の合計三人が常勤している。
?A診療概要
波照間島の島民も高齢化が進んでいるが、比較的元気で70歳以上でも生計の主たる一員であり、診療所を受診する90%はこの年代の方である。外来の患者さんは一日平均12〜15人程度である。診療科は医師が一人のため全科を診なくてはならない。その他に薬剤の調合、処方(多くは看護婦がやる)やレントゲンの撮影、血液検査及び測定などをする。日常業務の他に往診、学校検診、予防接種、保健活動、講演会などがある。
患者の疾患については特に大きな特徴はなく、老人に良くみられる整形外科的な疾患や慢性疾患(高血圧、糖尿病など)が多い。ヘリコプターによる緊急患者搬送は、昨年一年間で12件であった。時間外の診療はそのうち九割は土、日、祝日に集中しているため、休日でも島内に居ることがほとんどである。
?B県立病院間のネットワーク
本県では昨年度よりパソコンによるネットワークができ、大いに活用している。県下の県立病院、各離島診療所に繋がっているため、情報の交換、収集がスムーズであり、親病院への簡単なコンサルテーションも容易にしている。離島における情報不足や孤独感を幾らか補っているように思われる。

 

 

 

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