
過疎地診療所の役割とは?
秋田県・田沢湖町神代診療所兼田沢診療所所長 斎藤宏之
“おばあちゃんの望み通りお家で亡くなることができてよかったですね。家の人が頑張って最期まで自宅で過ごすことができたから、おばあちゃんも喜んでいるんじゃないかな。” 田沢地区で長く寝たきりだった92才の女性が亡くなった。希望通りの在宅死であった。たまたま私がみとることができたが、実は、田沢地区で私が死亡確認することは少ない。 田沢湖町田沢地区は人口約1,000人。国道341号線に沿い約15kmにわたって集落のある山林地帯である。診療所には通いの看護婦ひとりと事務の女性ひとりがいる。医師診察日には、約30km離れた神代診療所から看護婦もうひとりと、なんでもこなす事務の男性ひとりがやってくる。私は、火曜の午前と水曜の午後に田沢診療所に行く。木曜の午前には病院から医師がくる。合わせて半日×3回医師診察日があることになる。 田沢診療所には高血圧、高脂血症、糖尿病などの慢性疾患あるいは変形性脊椎症や膝関節症などの整形外科疾患(手術はしない)、そしてかぜや腹痛、膀胱炎などのありふれた疾患、いわゆるcommon diseaseをみるという役割があると考えている。だから、老朽化したレントゲン装置、神代診療所のお占の超音波装置はあるが、手術室や入院施設はない。ここには当直室はもちろん医師住宅もない。町の中心部(人口約7,000人)はふたつの診療所の中剛こあり、そこに77床の町立病院がある。救急病院として、24時間体制が常勤医師3人と診療所の私と秋山大学からの派遣医師により維持されている。 この環境の中、私は平成7年度、診療所の経営改善と神代地区6,000人の需要に応えるため、田沢診療所の診察時間を減らすこととした。すなわち平成6年度には、病院からの派遣医師が半日×2回、神代診療所から半日×3回診察していたのを、平成7年度には神代からのを1回減らし半日×2回とし、その分、神代診療所で診察することにしたのであるし、結果、田沢診療所の患者数が減ることはなかった。さらに、平成8年度には病院業務が忙しくなったため、病院からの派遣医師は半日×1回のみとなり、現在の診察日となった。が、8か月を経た11月現在、全く患者数は減少していない。現在、ふたつ合わせた診療所の経営状況がよくなったことはいうまでもない。 ともすれば診察日を減らすことは、患者需要に応えることができなくなるとの恐れから、悪いことであるかのように一思われがちである。が、患者数の少ない地域で医療を営むことは、自治体にとって大変な負担である。診療所の役割を明確にすることで診察日を減らすことができれば、負担は軽くなると思われる。現実には救急への対応がさらに厳しい課題として残るが、経費がかかり過ぎるため
前ページ 目次へ 次ページ
|

|