
セイというものに私はちょっと驚いたといいますか、そういういことがありました。その内容というのは、私の同級生は自分が小学生だった頃、公害間題で日本じゅうが大揺れに揺れていた。それで当時、環境間題に関心を持っていた自分としては化学の力でもって公害をなくしたいと思って化学者になろうと決心をした−そういうふうなことが述べられていたんです。で、私はその一文を読んで二重に驚いたわけなんですけれども、1つは、私も小学校の頃に似たようなことを考えていまして、それで小学校の頃は理科をまじめに勉強するようになって、その結果、化学が一番おもしろかったので薬学科を選択したといういきさつがあったんです。
もう1つ驚いたと申しますのは、同じ研究室で1〜2年間机を並べて勉強していた、実験なんかをしていたその同級生がそういうことを考えていた、私と似たようなことを考えていたというのに、私達は一度もそういうことを話し合ってなかったなということに気がついて驚いたわけなんです。多分、別に仲が悪かったとかいうわけではないですので、公害がどうのとか、環境がどうのとかそういうことっていうのは、普通の学生だった私達にとってはダサイ話題だったから、それで避けていたんだなと今にして思います。
当時はそうでしたけれども、今現在では環境間題を論じることっていうのは、ダサイどころかカッコイイことだと思いますので、若い人達にはまずファッションとしてでいいですから、どんどんそういう環境の間題について話し合ってほしいなというふうに思います。ちなみにその同級生の男の子でしたけれども、彼は博士課程を修了してサイエンティストになるという夢は果たしましたけれども、現在は化学の力で病気を治すための新薬づくりに取り組んでいます。これは私の想像なんですけれども、途中で公害をなくすっていうのは決して化学の力だけでは無理であって、人間の力が必要なんだ、人間の意識の力が必要なんだということに気がついたからではないかなと思います。
ところで、またちょっと話は変わるんですけれども、先日、歯科医をしている友達からある質問を受けたんですけれども、その質間というのは、歯を抜いた後で化膿止めを処方するわけなんですけれども、耐性菌のできにくい抗生物質っていうのはどの抗生物質だろうかということを聞かれました。抗生物質というものは、ご存じのように細菌を殺す薬剤です。抗生物質があるお陰で、私達は傷口の化膿ですとか、あと結核ですとか、そういういろいろな病気から逃れられているんですけれども、少なくともそうだというふうに最近までは信じられてきました。
ところが現在、その抗生物質を与えても死なない菌というものが、私達の周りに非常に増えてきているわけなんです。そういう耐性菌が増えてきますとどういうことが起こりますかというと、今までは抗生剤、抗生物質で簡単に治っていた感染症のような病気で命を落とすケースも出てきます。私の友人っていうのはそういう抗生剤を扱
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