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りまして、研究所っていうのは動物実験ができる施設を備えていたんですけれども、GLPというものに非常に制約されてまして、GLPっていうのは、Good Laboratory Practiceというもので、医薬品の非臨床試験の安全性試験に関する基準という長ったらしい名前がついているんですけれども、その基準というものは室温は1年を通じて何度でなくてはいけないとか、空調のやり方はこれこれこうでなくてはいけないとか、施設内の落下細菌はこれこれ以下だとか、物すごく細かく決められているわけなんですけれども、その管理の精度を高めるために、私達が働いていた6階建ての建物というものは一部の居室部分を除いて全く窓というもののない、本当にコンクリートでできた箱だったわけなんです。そういう閉鎖的な建物で仕事をしてましたので、さらにその閉鎖的な建物で、動物実験室というものは中が細かく区画化されてまして、そこで何十匹のビーグル犬だとか何百匹のラットだとかいうものを相手に仕事をしてましたので、土日のうちに本当に人間性を取り戻さなくてはという、そういう危機感を覚えたせいかもしれません。かつての私の同僚達には、本当にアウトドア派が多かったような気がします。
 今日は本当に、ふるさとを語る手段だとはいえ、私の個人的な思い出話みたいなものに付き合っていただいて、どうも申し訳ありません。
 京都の製薬会社勤務時代を思い出したところで、ちょっと大学時代に私が勉強しました薬学に関することをお話ししたいと思います。
 現在小説を書いている人間がどうして学生の頃は薬学だったのかとおっしゃられるとちょっと困るんですけれども、ここ数年の間に、理系の分野から文学の分野に足を踏み入れた作家というか、いわゆる理系作家と言われているんですけれども、そういう人達が続々と登場していて、ちょっとしたブームとなっております。有名なところでは、先日芥川賞を受賞されました川上弘美さんは生物学科の御出身ですし、昨年の大ベストセラーの「パラサイトイブ」を書かれた作者の瀬名秀明さんは、私なんかは親近感を感じるんですけれども薬学部のドクターコースに在籍されている方です。そういう理系の人達がどうしてまた小説を書いたりするのかという理由なんですけれども、科学という理詰めの世界を見て来た人達が、その反動で人間という暖味なものについて興味を抱いてしまったのか、それとも理詰めと思われていた科学というもののその先に見つけたものというのが非常に宗教的だったりとか霊的だったりとかして、人間的なものとの共通点というものをそこに見てしまったのかとか、いろいろ理由を考えてみるんですけれども、私自身のことも含めてちょっとよくわかりません。
 それで私自身は、結婚後横浜市に住むことになりましたので、製薬会社の方は辞めて、今度は薬剤師として病院に勤めたんですけれども、その頃のお話になります。
 出身校の薬学科の同窓会誌というものが、大体年に一度ぐらいのぺ一スで送られてくるんですけれども、そのときに同窓会誌を見て、かつての同級生が寄せていたエッ

 

 

 

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