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れ(56条1項(i))、またそれらの建造、運用、利用に許可を与え、規制する排他的権利を認められている(60条1項)。しかしこの排他的権利は、施設または構築物に関しては、それが「第56条で規定された目的およびその他の経済的目的のために設置されるもの」に限って認められているにとどまる。ここに「56条で規定された目的」というのは、天然資源の探査・開発のことと解釈できる。そうであるとすると、人工島は別として、海洋科学調査に関して施設または構築物を設置、利用する場合については、この条約第一三部4節の規定がもっぱら規定していることになる。そうであるとすると、これら施設または構築物をともなう調査について沿岸国がその裁量により調査への同意を与えないことができるとする規定は、沿岸国に新たな権限を与えるものとなる。つまり調査の性格の如何を問わずに、沿岸国はこれを拒否できることになる。
ある種の海洋科学調査にとっては、施設または構築物の設置が不可欠である場合があるとすれば、条約第一三部4節の規定は海洋科学調査に大きな制約を課するものともなりうる。実際、純粋海洋科学調査のなかには、浮遊ブイの設置や定点観測器材の設置など、施設あるいは構築物の設置を不可欠とするものも多い。条約はこれらの設置をともなう科学調査は裁量によって許可を与えないことができるだけでなく、許可を与える場合でも、沿岸国法令を通じて様々な条件を課することができることとされており(249条2項)、沿岸国には極めて広い管轄権が与えられている。これが純粋科学調査については、通常の場合、沿岸国に同意を与えることを義務づける規定と整合するのかについては、疑問が生じる。ただし純粋科学調査がそれら設備の設置を含めてひとたび許可され、沿岸国が科学調査の停止または中止を求めるような事情(253条)がない場合には、これら設備について沿岸国が管轄権を行使する根拠となる条文規定は存在しない。他方、それら設備を設置した者の本国や設備の登録国は、立法管轄権の行使は別として、少なくとも執行管轄権をもつわけでもない。こうした設備の利用に、第三者が不当に介入しこれを侵害した場合には、問題は条約によって帰属が画定されていない沿岸国および他の国の管轄権(59条)の調整に委ねられる以外にはないこととなる(20)

 

 

 

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