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(4)調査結果の公表
海洋法条約は、海洋科学調査を実施した国家または国際機関に、適当な経路を通じての公表および普及により、その海洋科学調査から得た知識を提供することを義務づけている(244条1項)。この規定は海洋科学調査に関する総則規定(第一三部第1節)ではなく、海洋科学調査に関する国際協力を定める第一三部の第2節に規定されている。この規定は、海洋科学調査一般に関する規定であるが、排他的経済水域および大陸棚の科学調査に関しては二つの点が問題となる。第一は、排他的経済水域または大陸棚の科学調査に関しては、この規定とは別に、沿岸国に調査結果の情報などを提供する義務が定められていること(249条1項)との関係であり、第二は、沿岸国による調査結果の公表に関する事前の同意を要求する権利(同条2項)との関係である。
まず条約は、沿岸国が自国の排他的経済水域または大陸棚の科学調査を許可する際に付する一定の条件を遵守する義務を調査実施の主体に課している。そしてこの条件のなかには、資料・見本を利用する方法の提供または一定の場合における資料・見本の提供の保証、資料・見本ならびに調査結果の評価の提供、調査結果を国際的に利用可能とすることの保証などが含まれている。これらの規定により沿岸国は、科学調査一般に関する国際協力としての知識の提供にとどまらず、生の資料や見本の提供、その評価の方法に関する援助、調査結果の評価などを含むより詳細な情報を要求できることになる。つまり純粋科学調査であっても、排他的経済水域または大陸棚の沿岸国は、国際科学会に科学的知識として公表される情報にとどまらず、より詳細な情報を入手する特別の利益を有することが承認されているのである。これは宇宙からの遠隔探査(リモート・センシング)によって得られた個別の国家に関係する情報の提供に関して生じてきた問題を取り除くものであると同時に(19)、純粋科学調査であってもその結果が当然に人類の共通の利益のみに関係するわけではないことを示すものでもある。もっともこの規定は排他的経済水域または大陸棚の科学調査には、見本の採取が当然に含まれることも前提にしており、とくに魚類などの生息状況や生態系の調査などに関して、

 

 

 

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