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魚種資源(大陸棚資源である定着性魚種資源を含む)の見本採集などに関しては、依然として、沿岸国の主権的権利との間で調整を要する問題を残す。先に述べたように、排他的経済水域に対する沿岸国の主権的権利は、同時に、資源保存および資源の最適利用に関する沿岸国の義務をも伴うものであり、これを実効的なものとするためには、資源に関する最良の科学的証拠を確保する必要があり、そのためにも魚種の資源調査や生態学的調査は不可欠となる。従って、「直接影響を及ぼす」という文言は、本来、限定的に解釈すべきものであろう(14)。天然資源の探査・開発に影響する調査であっても、それがそれら資源の利用を目的とするものでない限り、純粋科学調査の中に含める論者もいる(15)
(3)黙示の同意
海洋法条約は大陸棚条約と同様、いわゆる「同意の制度」をとっているが、通常、沿岸国によって同意があたえられるべき科学調査については、沿岸国による同意の遅延による実質的な同意の拒否という事態を避けるために、調査計画書による科学調査に関する情報の提供から4ヶ月以内に沿岸国が同意を与えないこと、およびその他の不都合を通報しない限り、6ヶ月後に調査を開始できるものとした(16)。これは従来から、官僚的な手続の遅延が問題となっていたからである。しかし6ヶ月という期間で事前通報を必要とすることには、期間が長すぎるという批判もある。この期間はもちろん絶対的なものではなく、条約も海洋科学調査を実施するための有利な条件を二国間または多数国間の協定の締結を通じて設定することを奨励している(243条)。
こうした手続き上の不都合を取り除くため、さまざまな国際的な場において、事前通報の期間の短縮化、情報提供の単一書式の作定などの努力が行われつつある(17)。もっとも、黙示の同意の制度がうまく機能するかに関しては疑念もある。海洋法条約の規定にもかかわらず、沿岸国は調査が実施されている過程で、いずれかの理由により、科学調査活動の停止または終了を要求すること(253条)がありうるからである(18)

 

 

 

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