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的権利および管轄権を不当に妨害してはならない(246条8項)とされ、規定ぶりに若干の違いがある。大陸棚条約のこの規定は、大陸棚の上部水域が公海であることから、航行、漁業、海洋生物資源の探査など公海における他の海域利用との調整を図った規定と並べて(しかし別の文章に分けて)挿入されており、その意味では公海条約において海洋科学調査が公海使用の自由の列挙事項から削除されたのを補う意味をもっていたが、同時にこれを海洋科学調査を制限する沿岸国の権利を規定したものとする解釈もあることは、先に見た通りである。海洋法条約におけるこの調整の規定は、排他的経済水域および大陸棚に対する同意制度および通常の場合における同意義務を定めたのを受けた規定であるので、どちらかといえば、科学調査を実施する主体に対する行為規範設定的な規定としての意味が強いように思われる。その意味では、科学調査の自由の範囲が広く確保されているといえる。
以上にかかわらず、先に述べたように、海洋法条約では、排他的経済水域または大陸棚の沿岸国が「自国の裁量により同意を与えなくてもよい場合」の一つとして「天然資源の探査および開発に直接影響を及ぼす場合」(is of direct significance for the exploration and expoitation of natural resources)掲げられており(248条5項(a))、これをどう解釈するかによっては、沿岸国による海洋科学調査の権利の範囲は相当に異なってくる可能性がある。海洋法条約では探査および開発も定義されておらず、概査についてはどこにも規定されていない。概査も探査に含まれるのか、「直接影響を及ぼす」とは如何なる場合を指すかなどの問題が生じるのである。
この規定は、これまで海洋調査に関して議論されてきた純粋科学調査(pure research)と応用調査(applied research)との区別の問題を受け継ぐものである。(13)海洋法条約上は、沿岸国が通常同意を与えるべき場合として規定されている「もっぱら平和的目的で、すべての人類の利益のために海洋環境に関する科学的知識を増進させる目的で実施される……海洋科学調査」(246条3項)が純粋科学調査とされよう。しかしこれら純粋科学調査であっても、大陸棚の鉱物資源の見本採取(この場合には通常大陸棚の掘削を伴うので沿岸国が裁量により同意を与えないことができる場合に該当する)と違って、

 

 

 

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