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いて、公海条約の規定から原案にあった「科学調査の自由」の規定が削除され、大陸棚条約のなかに異なる形で規定されたのは、まさに大陸棚とその上部水域である公海に対する各国の権益の対立を調整するためであった。大陸棚の実地調査が沿岸国の同意に服せしめられたのは、掘削などによる見本採集をふくむ大陸棚の天然資源調査が、沿岸国の大陸棚に対する主権的権利を侵害することが危惧されたからである。しかしその調整は自己完結的なものではなく、問題を実際上は諸国の慣行の発展に委ねたままに終わっていた。またその後、各国が領海を超える一定の沿岸海域について漁業専管水域あるいは排他的漁業水域を設定するようになるにおよび、魚種資源についても純粋科学調査のための見本採集が問題とされるようになってきていたのである。そこで第三次海洋法会議で海洋科学調査に関してもっとも問題となったのは、排他的経済水域および大陸棚の制度との調整の問題であった(11)
 
3.海洋法条約の法的枠組み
「海の憲法」とも呼ばれる海洋法条約は、条約第一三部で28ヶ条にわたって海洋科学調査についての包括的な規定を置いている。これらの規定は、基本的に科学調査のための国際協力の進展によって科学調査を推進することを目的としている。とくに科学調査の諸計画や結果として得られた情報、知識の提供・移転などの義務を定め、また開発途上国の自主的な海洋の科学調査能力の強化を謳っている。科学調査の実施に関しては海域毎に規定し、領海については、沿岸国はその領海における科学調査を規制し、許可し及び実施する排他的権利を認められ、また外国は沿岸国の明示の同意がなければ、科学調査を実施できず、また沿岸国の定める条件を守らなければならない(245条)。また排他的経済水域および大陸棚についてはとくに詳細な規定を設け、後に述べるように、いわゆる「同意制度」(consent regime)を前提にしつつも、同意を促進するための手続の発展を要求している。深海底(256条)および排他的経済水域をこえるウォーター・コラム(257条)についても、それぞれ海洋科学調査を実施する権利を規定している。なおこのウォーター・コラムは海域としては公海であるが、それが深海底の上部水域である場合と、大陸棚の上部水域(沿岸国

 

 

 

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