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が強いとされる。したがって、純粋科学調査と天然資源探査は一応その調査の目的によって区別できるかもしれない。しかし科学調査と概査とをその目的で区別することは必ずしも容易ではない。せいぜいその調査主体が所属する機関、あるいはその調査の実施の基礎となる法的な諸関係(契約の相手方)などを基準に判断する以外にはない。大陸棚条約においても、こうした調査主体に着目する規定がある。すなわち大陸棚の純粋科学的な調査に関しては、「実地調査」を含めて、これを「資格のある機関」(qualified institution)が要請する場合には、沿岸国は「通常、同意を拒絶できない」(大陸棚条約5条8項、第二文)とする規定である。ここに「資格のある機関」というのは、大陸棚の物理的または生物学的性質に関する純粋に科学的調査を行うことを目的として調査活動の実施を要請するのに相応しい機関という意味であり、科学調査として適当な科学的方法および手段を適用する能力をもっていなければならず、資格のある機関の範囲はある程度は自ずと定まると思われる。
(4)情報の公表性
「資格ある機関」のもう一つの要素は、情報の公表性という点にある。大陸棚条約では、沿岸国が「通常、同意を拒絶できない」場合において、「その調査結果はいかなる場合にも公表される」(in any event the results shall be published)と規定されている。ところで先のエーゲ海大陸棚事件におけるギリシャの「大陸棚資源に関する情報を入手する排他的権利」の主張についてみたように、海洋科学調査の自由と大陸棚の天然資源調査に関する沿岸国の権利がもっとも鋭く対立するのは、まさにこの点に存するといってもよい(9)。科学調査の自由をもっとも広く享有するはずの「資格ある機関」は、調査結果を公表する義務を負う、あるいは公表を目的として調査を実施するような機関であるのに対して、天然資源調査に関しては沿岸国は情報の秘匿性を場合によっては必要とする。そして科学的調査の結果と天然資源調査の結果は、部分的には重なり合い、あるいは情報としては同じものでもありうるところに問題が生じる。
これまでの国際法において、「科学的調査」の概念は、常にこうした情報

 

 

 

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