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侵害することになること、第二に、大陸棚条約は純粋科学調査であるか否かを問わず、「実地調査」については沿岸国の同意権を定めているが、本件において裁判所は、爆発物を用いて音波を発生させ、海底およびその下の地層によって跳ね返される音波を分析して地質構造に関する情報を収集することは、大陸棚の「実地調査」にはあたらず、したがって沿岸国の同意を要しないとしたことである。
第一の点に関しては、裁判所は純粋科学調査と天然資源探査との実際的な区分が可能であるという前提をとることにより、ギリシャが主張する「大陸棚の天然資源に関する情報を入手する排他的権利」という概念が含む実際上の問題、つまり地球物理学的な構造に関する調査が同時に天然資源に関する情報の収集でもありうるという問題には一切言及していない。もちろんこれは本件が仮保全措置段階での判断であることから、将来の大陸棚の境界画定に関する審理に予断を与えないためであったと推察できるが、いずれにせよ、この概念上の区分が、調査活動の目的(したがって調査主体の性格)によるのか、実際の調査の態様によるのかという点については、何らの基準も示していない。第二に、「実地調査」に関しても、これを海底との直接の物理的接触がある調査に厳しく限定する解釈をとっているように思われる。本件では仮保全措置を必要とする事情(大陸棚の現実的取得への着手)はないということを理由づける文脈においてではあるが、公海上からの音波による探査、構築物の不使用などの事実が掲げられていることは、裁判所の考慮の中でこうした要因が重視されていたことを物語っている。いずれにせよ本件においては、実験の小規模性、一時性といった調査活動の特性が、裁判所の判断を規定しているのであって、この判決を根拠に大陸棚に関する科学調査に関する一般的に適用できる法を確認することは必ずしも妥当ではない。
(3)科学調査と概査・探査
純粋科学調査と天然資源調査の区別に関しては、従来から議論のあるところである。実際の資源開発においては、最初に概査(proving, prospecting)がなされ、ついで探査(exploring)を経て開発(exploitation)の段階に至るのが通常である。探査は採算性をも考慮した開発の前段階の調査という性格

 

 

 

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