(2)エーゲ海大陸棚事件(仮保全措置)(7)
ギリシャとトルコとの間にある大陸棚の帰属をめぐっては、両国間にかねてより主張の対立があったが、トルコはそれが主張する大陸棚における石油探査ライセンスを発給するなどしていた。ギリシャは大陸棚の境界画定を国際司法裁判所に一方的に付託し、同時に、ギリシャが自国に帰属すると主張する大陸棚上でのトルコの地震探査専用船による大陸棚の調査活動を差し止めるために、裁判所に仮保全措置を申請した。この調査は小規模の爆発を繰り返し、実験的に音波を発生させて、海底地下の構造を探るものであった。
この事件でトルコは、本件地震調査船による探査は権利を創設するものではなく、また本件実験は探査の排他的権利を含む大陸棚に対する主権的権利を減殺するような性格のものではないと主張した。これに対してギリシャは、とりわけ主権的権利には、「大陸棚の天然資源に関する情報を入手する排他的権利」も含まれると主張した。とりわけ石油資源の有無は、国家の資源エネルギー政策を含む経済政策決定の根幹をなす情報であり、その意味で国家の経済的安全保障に直結する重要な(sensitive)情報であるという理由である。
裁判所は、本件調査を海底地下の地球物理学的構造に関する情報収集を目的とする活動としてとらえた上で、本件の実験が一時的な性質のものであること、公海上の船舶からの探査であること、構築物などを設置するものではないことなどから、大陸棚の現実的取得に着手したものとは認められず、従って本件実験によって回復不能な損害が発生する可能性はなく、仮保全措置は不要であるとしてギリシャの仮保全措置の請求を退けた。もっとも裁判所は、傍論においてではあるが、一般に「沿岸国の同意を得ない天然資源の地震探査は、疑いもなく沿岸国の排他的な探査の権利の侵害になる」(8)としている。なお本件において、裁判所は大陸棚の帰属については一切立ち入らなかった。
この判決は、本件調査を海底の地球物理学的構造に関する純粋科学調査としてとらえている。判決から読み取れることは、第一に、一般に、天然資源探査を直接の目的とする実験であれば、沿岸国の同意を必要とし、沿岸国の同意をえないでこれら調査を行えば、沿岸国の大陸棚に対する排他的権利を
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