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意を与えることを沿岸国に義務づけている(246条)。しかし従来から海洋調査は、海域利用の促進という面からは必要不可欠のものであったが、同時に、水路調査や海流調査などに表れるように、沿岸国にとっては安全保障を確保する必要上、常に警戒を要する対象でもあった。海洋法条約の文脈においては、とりわけ科学調査と「資源調査」との概念区分が必要となるが、沿岸国にとっては、資源に関する情報はその国の資源エネルギー政策その他の経済政策の基盤を明らかにし、場合によってはその国の国力に関する国際的な評価を左右するものとなる。その意味で、何が科学調査にあたるかは国家の経済的な安全保障にも関わる問題として意識されるようになる。
(1)大陸棚条約
こうした問題は、すでに大陸棚条約の起草過程において深刻な問題となっていた。1958年のジュネーブ国連海洋法会議において、当初、公海条約のなかで公海使用の自由の一つとして科学的調査の自由を規定することが提案されたが、大陸棚に対する沿岸国の主権的権利との関係で異議が提出され、結局、大陸棚条約において大陸棚の探査およびその天然資源の開発が科学的調査を妨害することとなることを禁止する規定を設けるにとどまった(大陸棚条約5条1項)。また大陸棚の「実地調査」(any research concerning the continental shelf and undertaken there)については沿岸国の同意を要するものとされている(同5条8項)。この後者の規定を重視するのであれば、前者の規定も海洋科学調査の自由を前提とするよりも、これを制限する沿岸国の権利を規定した側面の方が重視されることになる(6)
ところで、大陸棚条約5条1項の規定において、妨害を禁止されているのは「結果を公表する意図をもって行われる基礎的な海洋学的調査またはその他の科学調査」であり、それ以外の調査であれば妨害禁止への違反を問われないと解釈する余地があり、また「大陸棚の物理的または生物学的性質についての純粋に科学的調査」については沿岸国は通常同意を与えるものと規定された(同5条8項)ため、「純粋科学調査」に該当するか否かに関する沿岸国の判断次第で、科学調査の自由の範囲に広狭が生じうることとなった。

 

 

 

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