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いので、(国内行政法制度としての)許可制を仕組むのはやや無理があるとも考えられる。
(C)文化財保護法の法的システム
日本の法令において「科学調査」を規制するための法的スキームの例として、文化財保護法による埋蔵文化財の調査の規制がある。文化財保護法によれば、私人が埋蔵文化財を発掘調査する場合、文化庁長官に対して書面での届け出を義務づけている(法57条1項)。この場合に、文化庁長官は、発掘の禁止、停止、中止を求めることができ(同条2項)、右の違反に対しては行政罰(過料)が課される(110条6号、111条2号)。また、国の機関等が発掘調査をする場合に、当該機関は文化庁長官にその旨を通知し、必要があれば文化庁長官と協議することになる(57条の3)。
上記の埋蔵文化財発掘調査の規制システムは、所轄行政庁への「届け出」という法的仕組みの典型と言うことができる。「届け出」は、行政庁の側でその内容について審査する権限のないものであり、書式要件さえ満たしていれば届出人の法的義務は履行されたことになる(行政手続法2条7号)(10)。このことは、文化財保護法において、届出義務違反に対する制裁が、行政罰たる過料(従って刑事訴訟手続に乗らない)とされていることからも明らかである。さらに、文化財保護法の規制システムでは、文化庁長官(又は権限を委任された都道府県教育委員会)による発掘禁止・停止・中止等の命令を担保する制裁も、行政罰に留められている。従って、埋蔵文化財発掘調査は、行政法的にみてかなり弱い規制システムと言うことができる。
さらに、国の機関等が調査する場合の法的システムは、文化庁長官に「通知」し「協議」するというものである。日本の行政法規において、行政機関相互の「協議」がどれだけ実効性を持つのかは一義的に定まらないけれども、この点でも発掘調査に対する規制システムは相当に緩やかであると評価できるであろう。
海洋法条約を受けて、純粋な「海洋科学調査」を規律する行政法システムを構築する場合には、組織法的に所掌する行政庁が定まったとしても、

 

 

 

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