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に求められることになる。
なお、追跡権が認められるためには、国連海洋法条約111条1項で規定されている「国内法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由」という要件の充足が必要である。この点に関し、沿岸国が追跡権を行使する場合の前提になる外国船舶による沿岸国法令の違反については、特に違反の種類は限定されていないとして、沿岸国の法令違反であれば何でもよいとする見解もある(20)。しかし、排他的経済水域制度の趣旨からして、沿岸国の漁業資源についての沿岸国の利益を侵害する「実体法違反」の合理的疑いが必要であると考える。
また、国連海洋法条約113条は継続追跡権が旗国又は第三国の領海に入ると消滅すると規定しているので、自国の経済水域から継続追跡された外国漁船が他国の経済水域に入った場合にはまだ消滅しないと考える。なぜなら、経済水域は、条約上、領海とも公海とも異なる特別の地位をもつ海域であり、もし追跡権の消滅を認めると、漁業に関しては経済水域に領海類似の性格を与え、他国の執行管轄権を排除することになり妥当でないからである。
追跡権は、公務執行妨害罪の成立要件としての「職務行為の適法性」を基礎づけるものとして重要であり、追跡権が認められるための要件を充たさない場合には、職務行為の適法性が否定され、公務員に対する暴行・脅迫は公務執行妨害罪の構成しないことになる。
 
4.ボンド制度
国連海洋法条約73条1項は、「沿岸国は、排他的経済水域において生物資源を探査し、開発し、保存し及び管理するための主権的権利を行使するに当たって、この条約に従って制定する法令の遵守を確保するために必要な措置(乗船、臨検、拿捕及び司法的手続きを含む。)をとることができる。」と規定し、2項で「拿捕された船舶及びその乗組員は、妥当な供託金の支払又は他の保証の提供の後に速やかに釈放される。」と規定しており、これを受けて排他的経済水域漁業主権法は、24条以下に担保金の提供による早期釈放制度を設けている(21)
この担保金は、拿捕された者の釈放と船舶その他の押収物の返還の見返りとして提供されるもので、一連の刑事手続の進行を担保すると共に、出頭等に応

 

 

 

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