処罰されうるかは、もっぱら条約に左右されるので、条約との関係で明確性の問題が生じうるとして批判も強い。まして、刑法典に包括的国外犯の規定もおかず、排他的経済水域法の「職務の執行を妨げる行為を罰する」という文言だけによって域外適用が正当化できるかははなはだ疑問である。
立法者が同法3条1項4号の規定にどうしても盛り込みたかったのは、公務執行妨害罪と公務員に対する殺人罪、傷害致死罪、傷害罪であると推察される。なぜなら、職務執行の向けて犯された公務員に対する殺人や傷害致死が公務執行妨害罪としてしか処理されないのであれば、同罪の法定刑が三年以下の懲役・禁錮であることに鑑み、海上において危険をかえりみず業務に従事する公務員の士気にもかかわってくるからである。
たしかに、公務の執行を妨げる目的で行われる殺人行為、傷害行為から公務員の生命・身体を保護する必要性は高いし、排他的経済水域における職務の執行を妨げる行為の結果として発生した公務員の殺傷をも処罰することは、沿岸国の主権的権利の中に包含されるものであるから国連海洋法条約上も認められる立法措置であると考える。しかし、前述のように、排他的経済水域法の条文規定からして、同法の保護法益の中に、第二次的法益として公務員の生命・身体の安全を読み込むことは不可能である。なぜなら、通常の判断能力を有する一般人の理解において、当該規定から殺人罪や傷害罪の適用を受けるものと判断することが困難であるからである。立法者は、あらゆる事態に対応できるようにという意図から包括的な規定を置こうとして、かえって、最も域外適用したかった公務員の生命・身体に対する罪の域外適用を困難にしてしまったといえよう。今後の課題として、例えば、アメリカ合衆国漁業保存管理法(17)のように、取締官を負傷させた場合について明確な規定を置くよう法改正すべきであると考える。
3.排他的経済水域からの継続追跡権
国連海洋法条約111条2項は、「追跡権は、排他的経済水域又は大陸棚(大陸棚上の設備の周囲の安全区域をも含む。)において、この条約に従い当該排他的経済水域又は大陸棚(当該安全区域を含む。)に適用される沿岸国の法令に
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