を殺す」ことであり、妨害の手段として殺害行為が行われても、その殺人行為が「職務の執行を妨げる」行為であるとはいわないのである。同様に、職務執行に当たる公務員からトランシーバーを窃取する行為や、拳銃を強奪する行為は、それによって職務執行を妨害する結果を生じたとしても、それぞれ「他人の財物を窃取する行為」「他人の財物を強取する行為」であり、「職務の執行を妨げる行為」であるとはいわないのである。もし、これらの財産犯まで当然域外適用の対象となるとすると、一般国民の予測可能性は著しく害される結果になると思われる。
要するに、排他的経済水域法は、排他的経済水域における我が国の公務員の「職務の執行を妨げる行為」を処罰するものであって、職務の執行を妨害する「手段」として犯される犯罪や、職務の執行を妨げる行為の「結果」として生じた犯罪を処罰するものではないと解すべきであり、それは、同法3条1項4号の保護法益を「天然資源の開発等に関する排他的経済水域における我が国の公務員の円滑な職務執行」という国家法益に求めることの当然の帰結であり、明確性の原則からの要請でもある。しかも、経済水域における職務執行の妨害の処罰について、海洋法条約上明文の規定がないのであるから、それは、排他的経済水域の設定目的(天然資源の探査、開発、保存、管理)に照らして、漁業取締りの実効性を確保するための必要最小限度の適切な措置でなければならないと考える。
以上のような法益による絞りを否定すると、排他的経済水域法法3条1項4号の規定は包括的な国外犯規定となる。包括的国外犯の典型は、刑法4条の2の「この法律は、日本国外において、第二編の罪であって条約により日本国外において犯したときであっても罰すべきものとされているものを犯したすべての者に適用する。」という規定である(16)。これは、刑法2条ないし4条では処罰できない範囲につき、外交官等の国際的に保護されている者の生命・身体や公的施設を侵害する国外犯を、条約の要請の範囲内で補充的に処罰しようとする規定で、その範囲は殺人、傷害、暴行、遺棄、誘拐、逮捕、監禁、強要、脅迫、業務妨害、強姦、強盗、放火など多岐にわたる。しかし、4条の2のような規定はいわゆる「白地規定」であり、どの犯罪の国外犯が
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