は、その刑罰法規は違憲・無効とされる。なぜなら、明確性の原則が要求される根拠は、一般人に行動の限界を知らしめ、刑罰権の恣意的発動を抑止する目的にあるからである。たしかに、法文には一定の抽象的・包括的文言は不可避ではあるが、一般人の目からみて「法文からどこまで処罰するのか」が明確でなければならないと思われる。そして、「職務執行……を妨げる行為」について罰則を適用するという規定から、公務執行妨害罪や検査妨害罪が適用される点については何ら罪刑法定主義違反の問題は生じない。
問題は、立法者が予定したそれ以外の犯罪であり、それが「職務の執行を妨げる行為を罰する」という文言の範囲内にあると言えるか、また、一般人の予測可能性を奪うものではないかという点の検討が重要である。
そして、ある行為がその条文によって処罰されるかを検討する時の有力な手掛かりは、その条文によって保護しようとする法益である。なぜなら、刑法の目的を法益の保護に求める以上、犯罪とは法益を侵害する行為もしくは法益侵害の危険性のある行為だからである。
ところで、排他的経済水域制度は、本来、沿岸国の排他的漁業管轄権の拡大にその主張がある(15)。したがって、排他的経済水域法は、沿岸国の排他的経済水域に対する主権的権利を行使を認め、主権的権利という国家法益を保護する法律である。それ故、同法3条1項4号の保護法益は「天然資源の開発等に関する排他的経済水域における我が国の公務員の円滑な職務執行」という国家法益であると解すべきである。したがって、そのような法律が、国家の主権的権利とは直接的な関連性をもたない個人的法益や社会的法益に対する罪の域外適用を規定しているとみることは困難である。少なくとも、排他的経済水域法の条文を読んだ一般人が、この法律が個人法益や社会的法益をも保護する法律であることは容易には理解できないと思われる。
「職務の執行を妨げる行為」の中に、「職務執行の機会、職務執行の過程で犯された犯罪」が入らないことは文理上明らかである。問題は、「職務執行に向けて犯される犯罪」である。ある行為が職務の執行を妨げると共に、他の法益を侵害する場合には、他の法益を侵害する行為を「職務の執行を妨げる行為」であるということはできない。例えば、殺人罪の構成要件は「人
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