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るが、公務執行妨害罪の域外適用に関する本法の立法形式にはやや問題があるように思われる。なぜなら、8条本文の「他の法令」は刑法以外の法令を指しているので、「他の法令」ではない刑法典それ自体の犯罪類型の域外適用を認めるためには、刑法典自体の改正の必要があると思われる。そもそも、刑法典上域外適用が否定されている犯罪を別の法律で域外適用を肯定するという規定方式は極めて異例であり、そこに今回の法改正の第一の問題点があると思われる。
なお、「公務員の職務の執行を妨げる行為」の中に、業務妨害罪(刑法233条、234条)が含まれるかという問題もある。現に、偽計や威力による職務執行の妨害をも含むとする見解も主張されているが(9)、職務執行を威力等で妨げる行為に対してまで沿岸国の法令を適用することが国際法上許容されているとは断定できないことを根拠に否定的な見解もある(10)。ただ、この問題は、公務が業務妨害罪にいう「業務」に含まれるかという解釈問題と関連している。判例及び通説は「強制力を行使する権力的公務」の場合には業務妨害罪にいう業務には当たらないとしているので、偽計又は威力を用いてその種の公務の執行を妨害しても業務妨害罪は成立しないと解すべきである(11)
(4)公務執行妨害罪以外の刑法犯と明確性の原則
問題は、「職務執行……を妨げる行為」については罰則を適用するとの規定から、公務執行妨害罪以外の刑法犯の域外適用が認められるかである。この点、立法者は、「公務員に対する暴行行為、取締船の往来を妨害する行為、犯人を隠避する行為等」を念頭においていたようである(12)。具体的には、犯人隠避罪(103条)、証拠隠滅罪(104条)、被拘禁者奪取罪(99条)、逃走援助罪(100条)、往来危険罪(125条2項)、殺人罪(199条)、傷害罪(204条)、窃盗罪(235条)、器物損壊罪(261条)などの域外適用が指摘されている(13)
ところで、刑法の基本原理である罪刑法定主義を実質的な人権保障の原理とするためには、ある刑罰法規が、どのような犯罪に対してどの程度の刑罰が科されるかが一般国民にとって予測可能な程度に具体的かつ明確に規定されていなければならない(明確性の原則)(14)。一般国民が、当該刑罰法規によって何が禁止されているかを法文から理解することができないような場合に

 

 

 

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