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関としての地位を付与し、同条3項は、その取締りの必要上、「漁場、船舶、事業場、事務所、倉庫等に臨んでその状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査し、又は関係者に対し質問することができる」と規定している。そして、141条2号は、「74条3項の規定による漁業監督官又は漁業監督吏員の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又はその質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の陳述をした者」に対して、六箇月以下の懲役刑又は三十万円以下の罰金刑を科している。漁業法上の検査妨害罪(7)は、漁業監督公務員の検査行為に対する妨害行為を処罰するものであり、排他的経済水域法3条1項4号の「我が国の公務員の職務執行を妨げる行為」の典型例であり、排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律施行令1条の規定の反対解釈からも域外適用が認められる犯罪類型であるといってよい。
なお、海洋法条約73条3項は、「排他的経済水域における漁業法令の違反に対する沿岸国の刑罰には、関係国による別段の合意がない限り拘禁を含んではならず、また、他のいかなる体罰も含んではならない。」と規定している。そこで、条約の趣旨から、外国人に漁業法上の検査妨害罪が成立する場合・懲役刑を科すことの当否が問題となりうるが、検査妨害罪は条約にいう「漁業法令の違反」には当たらないと解釈しない限り、懲役刑を科すことはできないように思われる(8)
次に、刑法95条1項は「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役又は禁錮に処する。」と規定して、暴行・脅迫を手段とする公務員の職務執行に対する妨害行為を処罰しており、これまた「我が国の公務員の職務執行を妨げる行為」の典型例であると思われる。
ただ、現行刑法1条は属地主義を原則とし、2条において自国又は自国民の法益に対する保護主義による国外犯の処罰を補充的に規定している。さらに、8条で「この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する。ただし、その法令に特別の規定があるときは、この限りでない。」と規定し、特別の規定の存在により例外的に国外犯の処罰規定の拡大を図ることを認めている。そして、漁業法上の検査妨害罪はまさにこの特別の規定にあたるといえ

 

 

 

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