当該沿岸国の管轄権との関係が問題となる。海洋の法的性格から、入域した海域が領海であるか内水であるかにより、関わり合いも異なるものである。それが領海である場合には無害通航との関係が問題になる。領海条約第14条2項や国連海洋法条約第18条1項では、例外として、それが航海に通常付随するものである場合、不可抗力若しくは遭難により必要とされる場合又は危険若しくは遭難に陥った人、船舶若しくは航空機に援助を与えるため必要とされる場合に限り通航に含まれるとする。従って、緊急入域によってやむなく領海内に入り、そこで停船又は投錨している船舶は、正に通航しているものと認められ、その限りで無害通航の対象船舶になり得るとされている(8)。通航は沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り無害とされるから(国連海洋法条約第19条1項)、その範囲内で、当該船舶に対する沿岸国の(執行)管轄権の行使が制約される。それ故、それが領海である場合、たとえ緊急入域と認められる状況であったとしても、入域船舶が沿岸国の平和、秩序又は安全を害する場合には、理論的には当該入域船舶は無害通航権を享受することはできないという結論になろう。
他方、沿岸国の内水に入域した船舶は、本来ならば沿岸国の完全な管轄権に服することになるが、海難その他の緊急の必要性によって内水内に入域した船舶は、任意に入ったわけではなく、外的圧力(不可抗力)によって強制的に入域させられたものと評価できる。そうであるなら、緊急入域をせざるを得ない外的圧力が消滅すれば、合理的なある一定の時間の後には、沿岸国の完全な管轄権が復活するということになる。こうしてみれば、緊急入域の前提条件が存在しなくなったのに速やかに出域しない場合、及び入域船舶が入域とは全く別個に当該沿岸国の法令に違反するような場合、それが領海内であれば沿岸国の執行管轄権の復活であり、それが内水であれば(立法管轄も含んだ)完全な管轄権が復活することとなり、国内法によって対処することが可能になると考えることができるものと思われる。
(4)緊急入域で、沿岸国の管轄権から免除されるためには、慣習法上いくつかの要件を必要としてきたが(9)、それは、
?その入域が当該船舶、積荷又は乗組員に対する急迫した危険を避けるた
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