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停船等を行う船舶は、通航権そのものを失い、自動的に沿岸国の完全な管轄権に服することとなる。したがって、領海条約第14条3項、国連海洋法条約第18条2項但書の規定は、緊急入域した船舶が停船等によって通航権を失い、その結果、沿岸国の管轄権に全面的に服することにならない旨を定めたものであるとされる。停船等を行っても、なお無害通航権を享受し得る船舶として取り扱われる余地を確認した規定ということができる。従って、これら条約の規定は、緊急入域した船舶と無害通航との関係を規律した規定ではあるが、緊急入域そのものを正面から認めたものではなく、緊急入域そのものは依然として慣習法上のものである(5)
(3)緊急入域にあっては、緊急入域した当該外国船舶は、外的圧力によりいわば強制的に入域させられたわけで、それは任意ではない行為、或いは不可抗力である。慣習法上その限りで、沿岸国の管轄権行使からの免除(immunity)が与えられる。但し、入域することによって自動的に生じる沿岸国の国内法令上の責任を問われないという意味であって、一般的免除ではない。例えば、国内法上、外国船舶の入港禁止が定められていたとしても、入域に伴うこの国内法違反の責任を問うことはできないという意味であって、それ以外の沿岸国の法令には服することになる。例えば、関税関係法令が一定の報告を義務付けていたり、乗組員の上陸時に一定の手続を要求しているような場合、緊急入域した船舶であっても、原則としてそれらの義務が免除されるわけではない。その意味で、緊急入域船舶の有する免除は相対的免除である(6)。沿岸国からみれば執行管轄に対する制約である。つまり、緊急入域した外国船舶に対して、その入域を阻止したり、或いは処罰するための措置をとることができないことを意味している(7)
そうすると、後に検討することとなるが、緊急入域には要件が必要であり、その要件が失なわれた後に、当該入域船舶が国際法に従って出域して行かない場合には、沿岸国からみれば、執行管轄権に対する制約が解除されと解することができるであろう。
これをまとめ直して考えてみると、緊急入域とは、船舶が緊急の必要から外国の領海又は内水に入域することである。そこで、緊急入域した船舶と、

 

 

 

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