日本財団 図書館


る。そこで、本稿の議論の前提として、緊急入域について従来論じられてきたところを先ずまとめてみておくことにしたい。
(1)緊急入域は、19世紀前半から20世紀前半にかけて、奴隷輸送、戦時封鎖、関税法等の違反に関し問題とされた。そして、例えばEnterprise号事件(? Moore’s Arbitrations 4373.)で、「船舶が任意に外国の管轄権内に入れば、その国内法によってペナルティの責任を問われることになるものであっても、それが荒天によってやむなく外国の港に入港した場合には国内法の適用は受けない。このルールの理由は明白である。その船舶は意図することなく法の違反を犯したのであり、自己のコントロールすることができない状況の下で法の違反を犯したのであるから、これを処罰することは正義に反する。」と英国側委員が述べたように、そして、仲裁裁判の判決の理由として、「バーミューダ当局の行為は、すべての国が海難により自国の港に入港する近隣友好国の船舶に対して保護と援助を与えるべきであるという国際法及び友好の法に反するもの」としたように、このような緊急入域に関する考え方は、国際仲裁裁判所、さらに米国、英国を始めとする各国政府及び裁判所によって承認されてきたのであり、これらの過程で、緊急入域した船舶が、沿岸国の管轄権行使から免除されるという慣習法が成立したものとされ、今日その確立した国際法の地位は、いずれの国によっても否定することはできないものとされているのである(4)
(2)領海に関する条約第14条3項は、「停船及び投錨は、航海に通常付随するものである場合又は不可抗力若しくは遭難により必要とされる場合に限り、通航に含まれる。」としており、海洋法に関する国際連合条約(以下国連海洋法条約と略)第18条2項は、「通航は、継続的かつ迅速に行わなければならない。ただし、停船及び投びょうは、航行に通常付随するものである場合、不可抗力若しくは遭難により必要とされる場合又は危険若しくは遭難に陥った人、船舶若しくは航空機に援助を与えるために必要とされる場合に限り、通航に含まれる。」として、ここで問題にする緊急入域は、「通航」との関係で整理されている。即ち、領海内の船舶通航は、「継続的かつ迅速に」行われることとされ、原則として、停船、投錨更には徘徊を行ってはならない。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ 

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION