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緊急入域した外国船舶に対してとり得る措置

 
海上保安大学校教授 廣瀬肇
 
1.緊急入域の法理について
緊急入域とは、「気象・天侯の悪化と当該船舶の堪航性を勘案し、引き続き航海を行うことにより当該船舶に危険が及ぶ恐れがある場合、船舶内に急病が発生したため沿岸国に援助を求める場合等に入域すること。」と観念される(1)
更に敷衍すれば、外国船舶は、通常の場合には、貨物又は人の輸送のために我が国に来航するものであるから、公海から領海を通過して我が国の港に入港するのが本来のパターンである。その意味で、船舶の航行が自由であるか否かが関心事とされ、領海内の無害通航の考え方が古くから論じられてきたと言うことができる。しかし、そのような本来のパターン以外に、外国船舶が海難を避けるために我が国の領海内の島影に避難して停泊したり、或いは外国船舶内の怪我人や病人の治療のために我が国の港に入港したりする例が、かなりの数にのぼっている。実務上、「緊急入域」と呼ばれている(2)
そして、緊急入域については、国際法上も、必ずしも定まった用語が使用されているわけではないようで、「海難による入域」(Entry in Distress)、「不可抗力又は荒天による入港」(Entry into Port under “Force Majeure” or Stress of Weather)、「海難で避難所を求める権利」(Right to seek shelter in Distress)などがあるとされる(3)
ここに「緊急」とは、事態が差し迫って、即刻臨機の措置を執る必要がある状態を表す言葉だと理解すれば、そのような性格の故に、いわゆる緊急入域が国際法の分野で慣習法として形成されたきたというのも納得のいくことであ

 

 

 

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