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クス号」が出港すると同時に、「出国を企てた」との犯罪容疑により領海内で停船命令を発しこれを逮捕できたにもかかわらず、本件逮捕にあたった官憲は慎重を期してこの挙に出ず、前記のとおり領海内では単に勧告をくり返すのみで領海外に出た後初めて「出国した」との犯罪容疑により逮捕に着手したために、結果的には却つて前記のような違法の疑いある担置に出ざるを得なかったとみられるのであって、かかる経緯、状況下になされた本件逮捕が公海自由の原則を操欄する程明白な違法不当なものであるとまでは到底断し難い。確かに、国際法規は遵守されなければならず、法の適正な手続きによる裁判も保障されなければならないが故に、当裁判所も第七回公判期日において、本件逮捕が追跡権行使の要件を充足していない疑いがあり、そのような違法な疑いのある身柄拘束下で作成された被告人両名の供述調書についてはその証拠能力を否定したのであるが、右逮捕手続段階における暇疵がひいて憲法三一条の精神に反するものとして公訴提起行為自体まで無劾ならしめるものとは認めないので、この点に関する弁護人らの主張は採用できない。」という。
(32)田中利幸「追跡権または接続水域」海洋法・海事法判例研究第3号55頁では、接続水域の管轄を執行のみに限り、しかも領海と接する水域のみをカバーし、さらに領海を超えることによってはじめて沿岸国の法令違反が生じ、その法益が侵害される特殊な場合に限ってではあるが、接続水域の基本的な機能として、とくに設定を行わなくても執行が認められ得る余地があることを指摘する。

 

 

 

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