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第9条5項を前提にしているから、旅券を持っている場合を想定しており、旅券を持たない場合は入国と同時に不法入国した罪が包括して成立(17)し、その対象とされるため、不法入国罪の加重的な類型とはなっていない。おそらくはこうした事情が立法上も考慮されて、出入国管理法には不法入国に関して未遂犯処罰規定は特に置かれていない(18)
また、不法出国に関しては、第71条により
「第25条第2項又は第60条第2項の規定に違反して出国し、又は出国することを企てた者は、1年以下の懲役若しくは禁固又は30万円以下の罰金に処する。」とする。
不法出国については、このように不法出国だけでなく、出国を「企てた」罪を規定する。この出国することを「企てた」というのは、本邦外の地域に赴く意図をもって、入国審査官から出国の確認を受けることなく出国する準備をし、又はその実行に着手したが遂げるに至らなかったことをいうと解され(19)、未遂犯処罰規定である。この点は、不法入国と対照的である。
また、不法入国については未遂罪だけでなく予備罪の規定も置かれていない。これに対して、関税法においては、禁制品の輸入罪(109条1項)と無許可輸入罪(111条1項)およびその未遂罪、予備罪(109条2項、111条2項)の規定が置かれている(20)。このことは、関税法にあっては、領海の場合だけでなく接続水域においても同じように犯罪が成立することになるし、また接続水域でなければ規制しえないという固有の犯罪があるわけではないことを意味するが、不法入国の予備罪を規定しないということは、これとは異なった理解をすることになる。そこで問題は、不法入国してしまったためわが国の入国管理を侵害した者を処罰するのとは違って、まだ入国していない者をただ排除して入国管理を維持するのではなく、予備罪で処罰するという形式によってまだ入国していない者をわが国に入国させて法秩序の枠内にとり込んで他の犯罪者と同様の取り扱いをしてしまうことが適当かという点にある(21)。このことは、薬物関連犯罪について、同様に、輸入罪、未遂罪、予備罪を規定していることにおいても考えられる(22)。もっとも、薬物関連犯罪の場合は、国連海洋法条約における接続水域の法的地位に基づく法整備という

 

 

 

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