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き、個別的に、国家がその処罰意思を明らかにし、それを国民にはっきりと知らしめている点に求められる。しかし、4条の2では現実にどの罪がその対象となるかを知るためには個別に条約を検討しなければならず、しかも条約を見ても国際的に保護される者に対する犯罪の防止及び処罰に関する条約に明らかなようにそのことは自明ではない。従って結局裁判所の判断を待たねばならず、最高裁で固まるまでは流動的である。このことは、国民の予測可能性を害するというにとどまらず、国家意思が具体的に固まっていないか、少なくともそれが明らかにされていないことを意味する。そのため、その政策決定の当否を国民が批判する可能性を減殺する。その意味でも民主主義にもとる。この場合は、刑罰規定の特定の文言が解釈に委ねられ、しばらく流動的な場合とは異なる。明確にすることはできるからである。
ひとつの具体的な方法としては、4条の2の2項に、「前項の罪は別に法律で指定する。」との条文を加えることが考えられる。そしてこの法律として、例えば国際的に保護される者に対する犯罪の防止及び処罰に関する条約の締結に伴う国外犯の指定に関する法律を制定して、「国際的に保護される者に対する犯罪の防止及び処罰に関する条約第2条1項(a)にあたる罪は、国際的に保護される者に対する殺人(刑法199条)、傷害(刑法204条)、……」「同条約第2条1項(b)に当たる罪は、国際的に保護される者の属する公館……に対する現住建造物放火(刑法108条)……」と定める。これにより、刑法典上の簡明さは保たれ、国外犯が処罰される犯罪類型は一義的に定まり、条約の国会承認と同時に上程することで審議の対象とすることができる。」(6)
このような観点から領海・接続水域法第3条をみると、職務の執行について適用されるわが国の罰則は、具体的にはどの罪を定めるものなのか必ずしも明確なわけではない。刑法上の罪についても、第195条第1項の特別公務員暴行陵虐罪は考えやすいが、業務上過失往来危険罪、業務上過失致死傷罪などは明らかではない。これらの罪は、立法者の念頭には全くなかったようであるが、正当行為として違法性が阻却される場合が多いことが予想されるとしても、そうでない場合もありえないではなく、対象となる罪としては考えられる。従って、この点を明確化するために、後日、「領海及び接続水域に関する法律の罰

 

 

 

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