切になされているに違いないが、法体系としては、そのような裏側にも十分配慮しておくことは必要なことであり、その意味では適切な立法であったように思われる。
(3)職務執行行為に対する罰則の域外適用
第3の、職務の執行についてわが国の「罰則」を適用する旨の明文を置いたことは、(2)で指摘したような配慮を明瞭に現したものと評価される。この点については、立案のための検討の出発点で、筆者は次のように述べたことがある。
「域外で刑事手続などの公務執行をした場合、これに対する妨外が発生することも予想される。しかし、現行法は公務執行妨害罪について国外犯処罰規定を欠いている。公務が域外で行なわれるという理由だけで、それを担保する規定がないというのは、いかにも不完全である。国内法の観点からは立法化に理由がある。各国の立法例も一般に国外犯処罰規定を置く。……
公務執行妨害罪の裏側にあるのが、特別公務員暴行陵虐罪である。これも域外適用の規定がないが、立法化の必要があろう。……改正刑法草案では、どちらも国外犯処罰規定が置かれている。」(5)
今回の国内法整備でこのことに対する注意を怠らず、漏らさず規定したのは周到なことであった。
ただ、規定のし方は、刑罰規定を域外適用する場合の基本的な定め方である各罪を列挙するという方法は採られなかった。それは、昭和62年の刑法改正のとき、「前3条に規定するもののほか、この法律は、日本国外において、第2編の罪であって条約により日本国外において犯したときであっても罰すべきものとされているものを犯したすべての者に適用する。」(当時はカタカナ表記であったが平成7年改正でひらがな表記に改められた。)と定める、第2条から第4条までのように各罪を列挙するという方式を採らない第4条の2という規定が、既に刑法に置かれているからであったろう。筆者は、これに対して次のように批判し、現行法を比較的容易に改善する具体案を提示していた。
「4条の2は場所的適用範囲に関する刑法典の基本的立場とは異質なものである。刑法2条から4条の意味は、どの罪が国外犯として処罰されるかにつ
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