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内法上も違法となる根拠が明確になる。」(4)(〔 〕内は、文脈理解のため本稿に書き加えたもの。以下同じ。)
このように管轄権説を主張した理由は、ここでの問題との関連に限れば、領域外での執行を、追跡など国際法上管轄権が一般に認められている場合と、外国での執行などそうでない場合とに分け、後者の場合は、立法が不可欠として国会の関与を確保し(この点で無限定説と異なる)、前者の場合は、立法は不可欠ではないが(この点で領域説と異なる)、国際法上違法なものを国内法上も違法なものとするために国内法の適用を国際法が認める限度に限定する旨立法しておくことが望ましく(この点無限定説と異なる)、国際法上認められた権能を行使するかどうかどこまで行使するかの判断はできるだけ議会が行うことが望ましい(無限定説と異なる)と考えたためである。
さて、領海・接続水域法は、先に見たように、継続追跡に係る領域外での執行にわが国の法令を適用すると規定して、刑事訴訟法の域外適用の問題を立法によって解決した。そのことは、実務が従来の無限定説から、領域説または管轄権説に歩み寄りを示したと理解するのが素直であろう。もっとも、領域説の立場でも、この立法は確認的な規定であると理解できないわけではない。しかし、第3条の規定は、我が国の内水又は領海から行われる「国連海洋法条約第111条に定めるところによる」追跡に係る我が国の公務員の職務の執行……については、我が国の法令(罰則を含む。……)を適用する、と規定し、単に追跡ではなく、「 」で包んだような明文の引用によって、国内法の適用範囲を国際法の適用範囲と一致するように規定しているから、管轄権説に近い形で理解しておくのがよいように思われる。
海上保安官の職務執行を根拠づけるもう一つの主要な法律は、いうまでもなく海上保安庁法である。その職務執行についても、実務は、その場所的な適用範囲は、海洋に関して無限定説に立っていた。その根拠は、形式的根拠としては、海上保安庁法第1条の設置・目的規定をはじめとして、第2条の任務、第5条の所掌事務などでも、「海上において」と規定するだけで特に海域に限定のないこと、実質的根拠としては、領海外においても日本船舶に対しては現に執行が行われており何ら問題を生じていないこと、であった。

 

 

 

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