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追跡権行使と海上保安官の職務執行に対する妨害

 
横浜国立大学教授 田中利幸
 
1.海上保安官の職務執行と海域
海上保安官の職務執行は、今日においては、少なくとも観念的には、世界中のすべての海域において、日本船舶と外国船舶の双方に対して実施することが考えられる。その海域は、我が国の内水、領海、接続水域、排他的経済水域、公海、外国の排他的漁業水域、接続水域、領海、内水と続いている。
外国の内水と領海においては、当該国の主権が及ぶため、外国船舶に対してだけではなく日本船舶に対しても、通常は我が国の海上保安官による職務執行は考えられないが、当該国から要請又は承諾があった場合か、これに準じる場合、例えば国際社会が当該国の平和維持のためこれに代わって執行する際の協力として行う場合には、職務執行が行われうる。外国の接続水域にあっては、それが我が国の接続水域と重なっていないときでも、船籍国からの要請があるか国際法が特に認めた場合には、外国船舶に対する執行がありうるし、公海の一部であるという基本的性格から、日本船舶に対しては一般に執行が可能である。我が国の接続水域と重なっているときは、国際法上争いはあるが、我が国の接続水域として執行が可能である。外国の排他的経済水域では、同様の性格から、日本船舶には一般に執行が可能であるし、船籍国の要請か承諾または条約などによる国際法の承認があれば、外国船舶への執行も可能である。公海も同様である。我が国の排他的経済水域になれば、日本船舶だけではなく、船籍国の要請や承諾あるいは他の国際法の承認がなくても、今回国連海洋法条約が第56条で沿岸国に認めた主権的権利や管轄権に基づいて、外国船舶に対して執

 

 

 

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