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(2)広域レベルでの「自治体」の創設

現在のところ東欧諸国においては、「自治体」となるのは市町村レベルの基礎団体のみで、県・郡などの広域・中間団体は「監督機関」にとどまり自治体としての機能を育していない場合や地方自治体との関係を有していない場合がほとんどである。中には実質的な広域・中問団体が存在しないという事例も存在する。その中でポーランドにおいては、その形式・方法に関する議論は存在するものの、「中間レベル」における「自治体」を設置し自治体を重層化するという改革そのものについては、一般的に受け入れられるようになっている。もともとポーランドの「グミナ」はその平均規模が他の東欧諸国に比べて大きいものであるにもかかわらず、それでも合理性や広域行政の必要性が認識されるようになり、さらに現在の改革にはEU基準の達成(によるEUへの接近の促進)という長期的な目標も意識されている。歴史的には確かに三分割により異なる影響を受けた地域が集まったものであるとはいえ、連邦制を敷いているわけでも、国内に少数民族地域を抱えているわけでも、あるいは特に強い地域指向が存在するわけでもないポーランドでなぜ「分権化」ということが常に意識されるのか(もちろんそういった「問題」がないことが逆に「分権化」の議論をしやすくしているという点もあるだろうが)。この一点も重要な考察のポイントとなるであろう。

ここまでで整理してきたように、ポーランドの地方制度は決して先進的といえるものではない。地方に対する国家の大幅な介入権限を残している点や、住民の地方自治に対する関心が低い点、あるいは住民不在の改革議論が進められている点は、今後特に問題となる場面がでてくることも考えられる。

しかし「体制移行諸国」というカテゴリーの中で考えた場合、ポーランドは他の東欧諸国に比べて、短期間で一定の水準を満たす地方制度を導入することに成功している。また特に1990年以降は多くの新しい公務員が登用され、その結果公務員の若年化が進んだこと、加えて高等教育を受けた層が自治体公務員に就任するようになり専門化・技術化が浸透したことで、地方行政の質が向上したことも指摘されている〔15〕。なぜポーランドでは、短期問で地方制度を変革することに成功したのか。この問題は地方制度以外の民主化・市場化全体の過程との関連も踏まえつつ、今後検討していく必要があろう。

(仙石学/西南学院大学法学部講師)

*なお本稿では、ポーランドにかかわる特殊文字は利用していない。

(注)

(1)1990年段階での推定による(OMR1 1996:44)ポーランドの公式統計では、「民族比」は公表されていない。なお現在のポーランドが少数民族をほとんど抱えていないのは、第二次大戦中にナチスドイツがユダヤ人の大量虐殺を行ったことや、大戦後に当時のソ連の意向により「国境移動」が行われた際に多数のドイツ人が国外に追放されたことなどの理由による。

 

 

 

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