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語の使用権をもつとはいえ、国語を定める権限をもたない。自治管区は、その意味では州や地方に近い。同時に、住民の民族構成や生活慣習においてそれぞれ特徴をもっている。エヴェンクをのぞく自治管区には、構成主体の名に因むロシアに住む先住の主要民族の圧倒的多数が居住しており、それぞれに言語、文化、生活様式および経済活動の独自性を保持している。歴史、文化、生活の特徴が近いいくつかの民族がいっしょになって自治管区を形成するのが通常である。

自治管区の連邦と他の構成主体との関係はやや複雑である。ロシア憲法はこの点ではふたつの可能性を認めている。たとえば、ハントウイ・マンシーとヤマロ・ネネツでは憲章でチュメニ州に帰属することを確認し、チュコトカ自治管区は、1992年にマガダン州から分離し、直接にロシア連邦の構成に入った。自治管区が州、地方の構成に入るという場合、憲法上、州に従属しない平等の構成主体の連合とされ、両者は、相互協定にもとづいてのみ、州(または地方)への管区の加入に関連する構造、法律的内容、多様な関係を定めることができる。その変更は、当事者間の合意がある場合にかぎる。この点は、憲法裁判所も確認している。

しかし、現実はそれほど整合的ではない。チュメニ州の場合、連邦構成主体としての州固有の領域だけでなく、ハントゥイ・マンシーおよびヤマロ・ネネツ自治管区の領域をもカバーしている。ひとつの「同権の」構成主体に別のもうふたつの「同権」の連邦構成主体が含まれることになったのである。その際、州憲法に定められているように、自治管区の国家権力機関は州機関の決定を執行する義務を負うことになるのである。クリャシコフは、ひとつの構成主体の機関が、他の構成主体の指示に従い、一方が他方の権限を横領するなら、同権というのはどういうことになるのだろうかと懸念を表明している(15)。憲法適合性の問題とともに、ふたうの自治管区の国家権力機関の権限をどう見るかという問題にもなろう。実質的にはかつての自治管区の法的地位がそのまま踏襲されているわけで、ここにも過渡期の混乱状況をうかがうことができる。

 

(4)「憲法戦争」「法律戦争」

すでに指摘したように、ロシア連邦憲法と各共和国憲法のあいだには、連邦構造の本質にもかかわる深刻な矛盾がある。ペレストロイカの時期からこうした矛盾は、「憲法戦争」とか「法律戦争」と呼ばれてきた。体制移行の過渡的社会に特有の現象とも思われるが、東欧などには見られないロシアに固有のものでもある。以下、やや煩瑣になるが、今日の連邦制をめぐる問題状況をよく示ていると思われるので、各共和国憲法の関連条項をひろっておこう(16)。()内は対応するロシア憲法の条項である(各条文の項は省略してある)。

 

 

 

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