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より新たな「法律戦争」への引き金にならないかとの懸念を呼ぶものとなっている。

こうした事態の背景は、ロシアのどこにも共通するような社会的経済的な状況にもある。ウドムルトは、軍産複合体の影響力の強いところであり、この間の経済混乱のなか、1995年には工業生産が15%も低下した(ロシア全体では3%、イジェフスク市は22.7%低下)。ウドムルトの国家会議議長ヴォルコフは、『ロシア連邦』誌の主催した地方自治にかんする円卓会議において、失業、年金、手当、賃金、警察などは自治の管轄対象になっておらず、緊急を要する事態の打開にとって、市のレベルではこれを国家権力機関に委ねる必要があると述べている(このかなりの部分は地方自治機関でも対応しうるが、ヴォルコフはあえてそれを無視したようである)(5)。社会的経済的状況は、他の地方にも共通するものであるし、集中した取組みを要するときに集権化する手法は、他ならぬエリツィン大統領による93年秋の「政変」時と同じものであり、そのもとで従来地方自治機関とされていた末端の地方ソビエトはことごとく解散させられ、以来上級機関の任命になる行政長官が一手に地方権力を掌握してきたという経緯もある。それだけに、こうした問題が生ずる根は相当に深いといわなければならない。しかもヴォルコフは、ピスコーチンによれば、この地方の軍産複合体の「グラゾフ・グループ」の中心人物であり(6)、こうした人物が寡頭制的な権力構造の頂点に位置する現象も、ひとりウドムルトに限られたことではない。地域住民の生活の保障をめぐる手続と現実的政策や効果といった論点もからんだ問題だといえようか。そしてイジェフスク市のサルトィコフ市長は、こうした共和国国家会議の動向に抵抗し、同じこの会議では市の財産が国家会議によって処分されていると抗議している。かれは、この直後の24日に市長を解任されることになる。

ところで、この問題について、連邦憲法裁判所は長官名で10月23日にウドムルト国家会議議長に憲法裁判所の判決が出るまでこの法律の施行を停止するよう手紙を出し、25日には連邦議会の下院である国家会議がこの問題についてのチェックを検事総長に呼びかけている(検事の一般監督という独特の制度による)(7)。こうした動きのなかでのイジェフスク市長解任事件が起こったのである。まさにこの「ウドムルト」問題は、今日の地方自治をめぐる諸問題が集約的に吹き出したものといってよい。なお、今年1月24日に連邦憲法裁判所は、ウドムルト共和国のこの法律の該当条文がロシア憲法に違反しているとの違憲判決を下している(8)。

 

(3)事例2:「アルタイ地方」問題

第2の事例は、連邦の構成主体の国家権力諸機関のあいだで、権力分立にかんする理解において対立があり、それがロシアの憲法体制との関係で争われた事件である(9)。権力分立をめぐる論点は、構成主体のみならず、地方自治体における立法機関と

 

 

 

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