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政治的リーダーシップと今や「行政府党」と呼びうる旧体制の官僚機構であるとすれば、体制移行の難しさが充分に理解できよう。理念は変わり制度は変わっても、社会システムを維持していくうえで不可欠な、行政の技術の担い手は、必ずしも制度の予定するような形で存在してはいないのである。

 

(4)国による違い

以上に述べてきた体制移行諸国における地方制度構築の問題は、多数の国に当てはまることと思われるが、改革の成否は、無論、国によって異なる。今年度の調査の範囲内では、ロシアは前途多難を思わせるが、他方、ポーランドはまだ多くの問題をかかえてはいるものの、比較的順調に改革が進行していると思われる。

こうした国による違いは、それぞれの国の地理的社会的条件の違いによるものが多いであろう。ロシアは、いうまでもなく日本の現在の人口より少し多いだけの人口がきわめて広大な国土に暮らしている。そこでの統治の課題は何よりも、その空間的巨大さをいかに克服するかということであろう。いかに集権的なシステムを構築しようとしても、その多様性を克服することは、技術的にもコスト的も不可能であろう。自ずから、分権化し、一定の自治を地域に認めざるをえないが、それが生み出すであろう多様性と格差が国家統合と中央優位のシステムを揺るがす可能性は高い。

他方、規模もそれほど大きくなく、比較的均質的なポーランドは、ロシアに比べると改革は順調に進行しているように思われる。もとより課題は多々残されているが、この国では、過度の自治の要求に対処し、国家の統合に努力する必要よりも、地域の活性化を図るために、地方制度を再編成する必要性の方が高いといえよう。

 

5 今後の課題

以上のように、本調査研究で対象とした体制移行諸国の多くは、いままだ文字どおり体制移行の途上にあり、これからも試行錯誤と学習を繰り返しながら、新たな制度を構築していくと思われる。現在、それらの諸国は、それぞれの置かれた条件に対応しながら、優れたシステム構築の競争をしているといった方が適切かもしれない。

私たちにとってのこれからの課題は、これらの諸国をしっかりと観察し、成功例と失敗例を分析することによって、地方制度を規定している要因と改革の戦略を把握することである。その際、重要なことは、それぞれの制度ないし改革を規定している各国に固有の地理的、社会的、文化的、伝統的な要因と、私たちの努力と意思によって変えることのできる人為的な要因とを明確に区別し、後者の要因を明らかにすることであろう。

(森田朗/東京大学教授)

 

 

 

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