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(5)公務員制度

「金」(財政)の問題とともに重要なのが、自治体で働く「ヒト」(公務員)の問題である。地方自治制度が確立された国の多くでは、自治体で働く公務員は自治体が自ら採用する地方公務員であるのが一般的であるが、国によっては、以下のような理由から、必ずしも地方公務員制度が成立していない。

第1に、地方で採用され、原則として一生その自治体で働く公務員は、当然その自治体に対して忠誠心をもち、国家全体への忠誠心は稀薄であるかもしれない。国家統合という観点からみたとき、行政の中核をなす公務員の国家への忠誠心を確保することが何よりも重要であり、そのためには一元的な公務員制度をもつことが必要である。第2に、現代の行政は相当高度の専門能力を有するが、国によっては、そのような能力をもった人材を地方公務員として充分な数を調達することができない。優秀な人材の供給は、依然として、中央政府に依存せざるをえない場合がある。第3に、一元的な公務員制度を有し、幹部公務員が国内各地の自治体間を移動することは、専門知識能力の普及および情報の収集伝達において非常に重要な機能を果たすことである。

このような理由から、地方公務員制度が充分に確立されていない国が、世界では多数みられる。いうまでもなく、自治体が自力で中央政府と対抗できるような優秀な人材を調達できるほど、地方自治の範囲が広い。

 

(6)都市と農村

ほとんどの国では、国土の多くが人口の稀薄な農村地帯であり、多数の人口が集中する都市部は地理的にはごく一部である。両者の落差が大きい場合には、それぞれに応じた地方制度を設置することが必要になる。農村部では、必要とされる行政サービスは限られているかもしれないが、小規模で散在する集落に確実に行政サービスを供給することは効率性の観点からも必ずしも容易ではない。他方、都市部には、都市であるがゆえのさまざまな問題が集積している。それらの問題を処理することが都市行政にほかならない。

多くの国では、したがって、都市部と農村部とで異なる地方制度を設けている。もとより両者の差異は、その国の工業化の程度や全体的な行政サービスの水準等によって異なる。さらに、近年では交通手段の発達により、人々の生活圏、行動圏が広域化しており、広域的な行政課題や都市周辺部に特有の課題に対する制度も設けられるようになってきている。

 

4 体制移行と制度改革

さて、地方制度一般について、国家形成の観点から論じてきたが、それでは本調査研

 

 

 

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