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ざまな取り組みや改革の試みから、日本が学ぶべき点はきわめて少ないと考える。というのは、体制移行諸国が、いま直面し取り組んでいる課題のほとんどが、日本では既に解決され克服されてきた課題といえるからであり、諸施設や公衆衛生等の社会基盤の整備状態においても、また教育、福祉をはじめ住民福祉のための行政サービスの内容においても、それらの国と日本との間に歴然たる差があることは否定できないからである。

しかしながら、この研究には次の3つの意義があるように思われる。すなわち、第1に、純粋に学術的な意義である。とくに実践的な狙いはもたずに、それらの国々の社会や政治経済の実態を究明することをめざすものであり、さらにいえば、さまざまな社会の構造やメカニズムを明らかにすることによって、社会科学的な知見を獲得しようとする目的である。こうした研究を積み重ねることによって、われわれの社会についての理解が深まり、それはわれわれの社会一それは狭く日本にかぎらず、世界全体を含めてをよりよくしていくために有益な一般的な知識を増加させることはいうまでもない。

さらに、このようなアプローチは、日本の地方自治の形成過程を明らかにし、その歴史を分析するうえでも大いに有益である。つまり、日本も明治維新以来、体制移行諸国の状態から、次第に発展を遂げ、戦後30年近くを経て先進諸国の仲間入りを果たした。今日では、その先端に位置するところまで達したといえるであろうが、それまでの近代化の過程は、現在多くの体制移行諸国が取り組んでいる課題を解決し克服してきた過程ということができる。

戦後の日本における地方自治、地方制度をめぐる議論は、分権化を推進する主張にせよ、集権的管理を弁護する主張にせよ、そのほとんどが欧米の地方自治の理念、とくにアメリカ、イギリスの地方自治の原型を基準として展開されている。その基準を採用して、日本の地方制度の問題点が多々指摘されているが、それらの制度のいくつかは、体制移行諸国が国家統合のために、近年制度化したり、あるいは現在導入を計画している制度と類似している。このような視点からの考察が、現行の日本の地方自治の分析と地方制度史の研究に資する可能性は大きいと思われる。

第2の意義は、ある改革を実施する上で発生する様々な問題点や課題をロシア・東欧諸国ので行われている改革の中から抽出することが、最終的にはわが国が改革を行う場合に参考となる可能性があることである。現在、わが国では、明治初期以来100年以上維持されてきた地方制度の見直しが行われ、地方分権に向けての大規模な改革が進行しつつある。そのような状況において、わが国の地方制度はこれからいかにあるべきか、また現在の地方制度はなぜかくあるのか、を考える上で、目下、地方制度を改革しているロシア・東欧諸国の取り組みに関する情報は大いに役立つものと思われる。これまで、とかく地方自治の進んだ欧米諸国の制度についての研究が行われ、それらの国を基準として日本の地方制度についての評価、提言等が行われてきたが、体制転換過程にあるロシア・

 

 

 

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