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4 DC財政の現状

 ここでは、1990年代のDCの財政危機を取り上げた連邦議会の公聴会の議事録(U.S.Government(1995))に収録されている報告書(McKinsey & Company Inc.;UrbanInstitute(1994))に依拠しながら、DC財政の現状について考察する。DC財政の現状を考察する前に、DC経済のアメリカの大都市における位置づけからみていくことにしよう。

(1)DC経済の位置づけ

 DC経済のアメリカの大都市における位置づけをみるために、25歳以上の者を対象とした国勢調査局のデータを使って、DCを含めた25大都市の所得、教育、雇用のパフォーマンスを比較をしてみると、1989年のDCの一人当たり所得は3万1000ドルであり、サンフランシスコやロサンジェルスなどの西海岸の都市に次いで5番目の上位に位置し、ニューヨークやボストンなどの都市を上回っている。1990年の大卒率は33%で、サンフランシスコに次いで2番目であり、専門・管理・技術職の比率と貧困の減少率(1979年から1989年)はともに25大都市の中で1位である。このように、DCは他の都市と比べても豊かな都市であるといえる。それにもかかわらず、このような豊かな都市になぜ財政危機が発生するのかが、一見したところ大きな謎である。次に、なぜ財政危機が起きたのかについて考察してみることにしよう。
 財政危機は、財政の収支バランスが崩れ、支出が収入を上回ることから発生するので、財政危機は何らかの理由で支出が大きすぎること、もしくは収入が少なすぎること、もしくはこの両方が同時に起きることで生じる。DCの場合は、最後のケースであると指摘されているが、特に収入が伸びないことが大きな原因とされている。以下では、支出と収入についてそれぞれみていくことにしよう。

(2)DCの支出

 DCの支出で特徴的なことは、首都としての一層制の政府構造となっているために、州やカウンティーそして市等の役割を併有していることである。そのために支出項目は多岐にわたっている。前述の公聴会の議事録(U.S.Government(1995))によると、DCの役割は、第1に州の役割としての保健や福祉(メディケイド:低所得者向け医療

 

 

 

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