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かし、たいがいのところ、公私協働型まちづくりを進めるコミュニケーション制度の不在、行政と住民の間の、あるいは、住民の間の相互不信、成功体験の欠落による協働への信頼の欠如、などが「まちづくり」の進展を妨げている。それが現状である。肝心なのは、価値を増大させる《アイディア》の創出である。すでに「レストラン・カリブー:プロジェクト」をめぐる会話が示したように、コミュニケーションは、確かに、そうした創造的力を内在している。まちづくりの場合、それは、互いの(公共施設、住宅、店舗・事業所などの)将来計画(アイディア)を柔軟に再編成しながら、都市空間の価値を充分増大させるような「まちづくりヴィジョン」に創り上げるコミュニケーションである。ところで、コミュニケーションにおける協働はどのようにすれば可能なのだろうか。すでに見たように、意味づけの相互作用には記憶に由来する不確定性が内在している。この不確定性は、人為的制御に服さない根源的な不確定性である。誰も記憶の引き込み合いを完全にコントロールすることはできない。そうであれば、コミュニケーション協働を人為的に実現しようともくろむこと自体が無駄な努力ではないだろうか。確かに、制御不能な不確定性がある以上、コミュニケーション協働の工学的設計は不可能である。しかし、意味づけその相互作用のプロセスには、不確定性だけでなく、秩序性もまた存在する。この秩序性は、意味づけ全体を確定してしまうような全体的構造ではない。いうなれば部分的に散在する秩序である。この秩序性に関する知見を集積して活用すれば、より高い成功の蓋然性をもった《協働的コミュニケーション》を展開することが充分可能である。例えば、どのようなコトバ使いがコミュニケーションの断絶を誘発しやすいのか。逆に、どのようなコトバ使いが相互信頼を醸成するのか。直接的な類似の記憶がないために理解が難しい場合、どのような説明がそれを容易にするのか。意味づけの再編成を妨げている隠れた固定観念を探り出すにはどうすればよいのか。非常に強固な固定観念を再編成するためにはどうすればよいのか。こうしたことが分かれば、われわれは意味づけをずっとしなやかにすることができ、意味世界の編成を創造的にすることがで

 

 

 

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