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動作を取り違えて見当外れの応じ方をしたり、一人よがりの対応をしたりすれば、演奏は迷走し台なしになってしまったりする。また、プレー、アイ・コンタクト、仕草などから互いの意図を察知できなければ、パスをインターセプトされたり、ボレーやヘッディングを空振りしてしまったりする。あるいは、新製品の開発やヴィジョン策定をめぐるコトバの遣り取りが誤解や対立を生み、あげくの果ては、グループを崩壊に導くことすらある。コミュニケーション協働がうまく行けば、素晴らしい演奏やプレーが展開するけれど、また、魅力的な新製品やヴィジョンが誕生するけれど、破綻すれば、結果は無残である。コミュニケーションがはらむ不確定性は、何も協働においてのみ問題となるわけではない。人間コミュニケーションー般がはらむ本質的特性である。ともあれ、この不確定性が、価値創出の源泉であると共に、協働破綻の源泉でもあるところに、コラボレーションのやっかいさの原因がある。コミュニケーションは協働の成功を予め保証してくれるものではないのである。ところで、冒頭に紹介した本の著者は「コラボレーションはコミュニケーションではない」と言明している。それは、著者がコミュニケーションを記号の交換や情報の伝達という狭隆な概念として捉えているためである。モールス信号による電信の遣り取りやデジタル信号の音声や画像への変換といった情報機器の間の通信や、あるいは、それのメタファとして人間のコミュニケーションを捉えれば、確かに、コラボレーションはコミュニケーションとは別次元の事象である。しかし、人間コミュニケーションにはこのような機械コミュニケーションとは全く異なった側面がある。それが不確定性をはらんだ《意味づけの相互作用》という側面である。この側面を直視しなければコラボレーションを可能にする人間コミュニケーションの創造性は見えてこない。必要なことは、人間コミュニケーションそのものを見つめ直し、協働の条件を明らかにすることである。

(4)人間のコミュニケーション:コトバ・記憶・情況

社会現象は人間の相互作用から生じる。ところで、社会現象を、見たり、聞いたり、触ったりすることができるタンジブルな現象としてのみ捉える

 

 

 

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