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では、アイディアの方はどうだろうか。あるアイディアが一度創出されれば、その具現物やそれについての説明を見聞きすることで、人々はそのアイディアを理解する。これは心の中におけるアイディアの複製である。現物を見たり説明書を読んで一人で理解してしまう場合もあるから、アイディア複製プロセスもまた協働を不可欠とするわけではない(後述するが、厳密な意味でアイディアが複製されることはない。アイディアは各人の心の中につくられ、それが個人間で完全に一致することはない。ここで複製といっているのは、本当は、類似物の生成にすぎない)。しかし、けして複製されることがないものが一つだけある。それは、最初のオリジナルなアイディアを生み出したコミュニケーション協働のプロセスそのものである。すぐ後で述べるように、このプロセスは、ハプニングを含んだ一回限りのもので、けして複製されることはない。そこでわれわれは協働について次のようにいうことができる。すなわち、「コラボレーションとは、結局、なにがしかの創造的なアイディアを創り出す社会的相互作用のプロセスであり、その核心をなすのはコミュニケーション協働のプロセスある」と。ところが、実際に多くの人がすでに経験しているように、協働による価値創出は、易々とうまくいくかと思えば、どうやってもうまくいきそうもないこともある。協働しようとしさえすれば、必ず価値創出が実現するわけではない。どうしてなのだろう。それは協働によるアイディアの創出が《意味づけとコミュニケーション》の産物だからである。次節で述べるが、《意味づけ》に根源的な不確定性があること、そして、その相互作用であるコミュニケーションが不確定性の重奏プロセスであること、ここにその理由がある。そのため、コミュニケーションには絶えずハプニングが潜在しており、それがしばしば顕在化する。ジャム・セッションやサッカーなどでは、磨き抜かれた技と感性によってテーマや勝利へ向けて統御されたハプニングの連続が芸術性やスリルの源泉となる。新製品の開発やヴィジョン策定においては、新しいコンセプトやヴィジョンがコミュニケーションの不確定性から生まれる。しかしながら、一方で、同じ不確定性がコミュニケーション協働を破綻させる光ともなる。例えば、仲間の奏者の音や

 

 

 

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