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イアを創出するコミュニケーション協働の方であって、行動の束として構成される物理的協働作業ではない。コミュニケーション協働が創出したアイディアが行動を統合するから、物理的協働が成立する。したがって、真の協働はコミュニケーション協働であり、その産物である《アイディア》こそが《究極のコラボ財》なのである。このことを具体的に示すことにしよう。例えば、ジャム・セッションの奏者たちがやっていることは、演奏であるとともに、楽器操作や肉体の動きをメディア(媒介)として展開するコミュニケーションでもある。これらをメディアとして、奏者は実現したい音楽世界をほのめかし、それに触発された仲間がまた楽器や肉体をメディアにして応答し、その音楽世界をさらに揺り動かし展開させる。こうした互いの響き合いは、演奏であるとともに、実現したい音楽世界についての語り合いでもあるのだ。また、サッカー・プレーヤーたちがやっていることは、サッカー・ゲームであるとともに、プレーやアイ・コンタクトや仕草をメディアとする、実現したい次の瞬間のプレーやゲーム展開についての語り合いでもあるのだ。また、新製品開発に関する遣り取りやさまざまな組織・集団によるヴィジョン策定は、まさに、実現したい未来のアイディアをめぐるコミュニケーションである。この場合、中心になるメディアは、主としてコトバである。音、動作、コトバなどのメディアのちがいや、どのくらいのタイム・スパンの未来創出をめざしているかなどのちがいこそあれ、協働の核心はアイディアの創出をめぐるコミュニケーション協働にある。コラボレーションの核心がコミュニケーション協働であり、また、究極のコラボ財がアイディアであることは、次のように考えれば一層明らかである。響き合いの連続によって生まれたジャム・セッションの名演奏、ひらめきが生んだサッカーの名プレー、あるいは、互いの工夫に工夫を重ねて誕生した新製品、いずれも、一度アイディアが成就すればそれ以後は協働なしに複製可能である。名演奏のレコードはほぼ忠実な複製となるし、採譜すればある程度再演もできる。才能にもよるが、練習を課せば、名プレーも定型化されたプレー・リストに加えられる。新製品は量産される。これらの複製を実現する作業プロセスに協働はいらない。

 

 

 

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