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的にはたらくとき、全体はかけがいのない価値をもった名演奏となる。しかも、個々の奏者もまた光り輝くことができる。ここにはコラボレーションの重要な特質ががほぼ遺漏無く含まれている。まず、協働を構成する個の全体との関係については、次のような諸点が挙げられる。一つには、協働は個が全体を創り出す営みである。ここでいう全体とは「創り出される全体」であって、全体の具体的内容があらかじめ固定的なものとして決まっているわけではない。二つに、個は固有の技術・知識や感性などをもった自律的な主体として協働に参画し機能する。三つに、しかしながら、その個は自らの振る舞いを情況と関係づけながら編成するしなやかな主体である。そして、四つには、創り出される個および全体の価値は、「自律的かつしなやかな主体」たちがハプニングによる創発を含みつつ響き合い紡ぎ出す相互関係に決定的に依存している。次に、協働を一つの総体として見たときの特性を二つ挙げよう。これが社会的には最も重要な点であろうが、一つには、協働は、個々人の行動の総和ではなくそれ以上のものの創出を目指した活動である。ここがたんなる分業・協業とのちがいである。そして、これも協働の本質的特性として押さえておくべき点だが、二つには、協働の成否にとって、不確定性が本源的役割を果たしていることである。協働は、成功すれば個々の総和以上の成果をもたらすが、失敗すれば、総和どころか人間関係の破綻などマイナスの結果さえもたらすこともある。しかし、協働の成否の不確定性は、実は、人間コミュニケーションがはらむ本源的不確定性に由来するものであって、この不確定性を消滅させることは不可能である。仮にそれができたとすると、破綻も生じないかわりに新たな価値の創出もありえないことになる。つまり、その場合、協働は協働でなくなりたんなる共同になってしまうのである。さて、財の物理的性質ではなくそれが創出されるプロセスに着目すると、財の価値が協働の良し悪しに強く依存している財が多数ある。こうした財を《コラボ財》と定義しよう。すると、数多くのコラボ財の存在に気づかされる。例えば、クラシックのアンサンブル演奏は、創出される全体の構図が楽譜に記されている。それだけハプニング的創発の度合いはジャム・

 

 

 

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