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働とマルティメディア・ネットワーク技術の可能性との関連について、一言だけ指摘しておけば、今後、グループウェア開発などにおいて人間コミュニケーションの特性を見据えた技術開発がますます重要になることを強調しておきたい。というのは、協働の成否が、人間の意味づけの営みとその相互作用としてのコミュニケーションの在り方に決定的に依存しているからである。協働的コミュニケーションを支援する技術の開発は意味づけとコミュニケーションに関する理解に基礎づけられてこそ有効なものとなる。この点で本稿の議論は技術論とも密接に関連している。

(2)ジャム・セッション、製品開発、まちづくり

この奇妙な組み合わせに戸惑う方も多いと思う。種を明かせば、ジャム・セッションはコラボレーションによる価値創出を具体的に理解する格好の事例である。新製品の開発はそれが経済の活性化に重要なことの例示である。また、まちづくりは、「言うは易く行うは難い」協働の促進を考える例題である。ジャズのジャム・セッションは、テーマが告げられると後は次々と演奏者たちのアドリブ演奏が曲をつくって行く形態である。奏者たちが弦楽器、管楽器、打楽器などを持ち寄って集まったとしよう。それぞれが好き勝手に楽器を奏でだしたらどうだろう。個々の奏者がどんなに名手であっても、そこにはただ雑音が展開するだけである。しかし、彼らが、一つの曲を奏てようと協働すると、演奏の構図はテーマによって緩やかに示されているだけなのに、素晴らしい音楽世界が展開する。その演奏が価値あるものになるかどうかは協働に強く依存している。例えば、一人が自分を目立たせようと他の奏者におかまいなく大きな音を出したりすれば、あるいは、へまをしたりすれば、それだけで全体が台なしになることさえある。しかし、協働がうまくいけば、名演奏が生まれる。演奏を創り上げていく過程で、個々の奏者はけして自らの主体性を放棄するわけではない。それどころか、個々の技術や個性はジャムを価値あるものにする大切な要素である。しかし、各奏者は頑なに自分流の演奏に固執するわけでもない。主体性をもちつつ自分の演奏を柔軟に編成しながら全体を創り出していく。協働が理想

 

 

 

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