第7章 オーストラリアにおける市民セクター活動
−日常と非日常のボランタリズム−
西尾隆
1. はじめに
本章では、オーストラリアのボランティア活動に関する実態調査を踏まえ、ルーティーン状況と緊急対応という条件差による市民活動の違い、日常と非日常のボランタリズムの諸相について、とくにボランティアと行政の関係に焦点を当てながら検討してみたい。本章のテーマには、少なくとも次のような3つの対比の軸が交差し、より合わさっている。第1は「国際比較」の軸、第2は「日常と非日常」という対比軸、第3は「ボランティアと行政」という対比軸である。
まず国際比較については、わが国の実態と対照するか否かにかかわらず、オーストラリア対日本、西欧キリスト教社会対日本社会、あるいは西欧諸国におけるオーストラリアの位置づけといった対比が意識されている。一般に比較研究の意義は、「モデル探求」「日本理解(日本的性格の抽出)」「一国分析の深化」「類型差の析出(理論の構築)」などにあるといわれるが1)、調査に当たった筆者自身の興味の1つは「モデル探求」であった、ただし、一定の社会条件に基づく類型論的考察なくして有効な学習・模倣が困難であることも認識しておく必要があろう。
次に、日常対非日常という対比についていえば、ルーティーン下と緊急事態における対応とが行動原理・思考回路において対照的な関係に立つことは指摘するまでもない。しかし他方、日常の隠れた社会構造がしばしば危機において表面化するという意味で、あるいは危機における対応の経験は危機が去った後の日常的社会関係の中に新しいパタンをつけ加えるという意味において、両者は明らかに連続面を有している。つまり両者の差異以上に、関連性が重要な論点となってくる。
第3のボランティアと行政という対立の図式については、制度化の度合い、専門性の有無、組織化の強弱、機能分化の程度、結果責任への自覚、報酬の有無、メンバーの意識・エートスといった諸々の対比が連想される。けれどもボランティア活動の実態を見ていく
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