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疏る国内観光へ
低廉な旅行商品造成が鍵

住田 正二・東目本旅客鉄道(株)最高顧問



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まず、TAP会議の果たす役割をお伺いいたします

住田 TAPには最初から参加していますが、仕事の都合もあり、全部は参加していません。また、その役割ですが、観光に関係する機関というのは運輸省をはじめ、国土庁、建設省、農水省、文部省等の官公庁に、それから観光関係の団体あるいは旅行業に運輸・交通関係の会社。地方では県とか市町村、またそれぞれの団体や宿泊関係など、そのほか観光問題をいろんな角度から勉強している方もおられます。TAP会議は、そういう方々を一堂に会し、基本的な話をさらに一歩進め、各地方における観光をどうしたらよいかということを、現実的に議論する場だと思います。それも一地域ではなく、広域的要素を採り入れて観光を考え、各地の特色を活かした観光をテーマに取り上げてきたと思います。

現在のTAPはいかがでしようか

住田 一通り問題が出尽くしたという感じがします。この機会に一度立ち止まって考えることも必要なのではないでしょうか。これからどういうテーマで取り組むかを考える段階に入ったと思います。

日頃観光に対してどのような考えをお持ちですか

住田 人間の生活は寝る、仕事をする、余暇を使う。この三つから成っていると思うんですが、この余暇の使い方の一つが旅行であり、スポーツであり、読書ということになります。そもそも観光の定義というのは難しいのですが、空間の移動をともなう余暇の活用ではないか。交通は歴史的にみていろんな役割を果たしてきたと思います。人類はその昔、長い間閉鎖社会であったのが、交通の成立によって人と人との接触が始まり、知識が広まり、物を交換するようになり、生活が豊かになった。そこで文明が発展してきたと思うのです。観光はその文明史の中では比較的新しく、交通機関が発達してきた18世紀末から19世紀になって出てきた概念だと思います。それが今や交通機関のさらなる発達によって、ますます人類にとっては不可欠なテーマになってきています。

最近の観光はいかがでしようか

住田 景気のせいでしょうか。小さな旅が非常に尊重されています。これは新しい方向であり、今後も伸ばしていかなければと思います。また、中年の女性の方が少人数で旅行するケースが非常に多くなっています。こういう方々が気楽に旅を楽しめるように手を打つ必要があります。

鉄道分野では、どのように対応しておりますか

住田 わが国の観光で、今一番大きな問題は国内観光の空洞化です。原因はいろいろあると思いますが、何といっても日本の旅行は高い。このためJR東日本では、できるだけ安くして、長期滞在を可能にするという観点からいろいろやっています。レンタカー事業とか、安い宿泊施設、しかも連泊すればさらに安くなる施設とか。それから食事の問題。私はずいぶん前から、連休化の運動とともに、料理にもA,B,Cのランクづけを唱えてきました。Aは量、Bは質、Cは郷土料理というように選択制を持たせろと。これがなかなか実現しない。私どもは地元との共生をめざし、全体が潤うという考え方で、原則として夕飯をださないB&B式のホテルをつくりました。いま5件あります。これからも増やします。また、安い旅行商品をつくるのにも努力しています。例えば5〜6年前、“佐渡冬紀行”という商品を出しました。今まで、佐渡は冬の時期休んでいたのですが、全部の料金が5割引きで、東京から1泊2万4600円でやったんです。それが非常に受けました。船もジェットフォイルになり揺れないし、速い。旅館も通年で商売ができるようになり、地元にも喜んでもらっています。

観光は21世紀の基幹産業といわれますが……

住田 科学の発達、それにともなう労働生産性の向上によって労働時間が短縮され、余暇の利用で生活を豊かにすることが重要な課題になっています。その意味で観光が21世紀のリーディングビジネスになることは間違いないと思います。ただ、観光の発展を今後どのような形ではかっていくかについては、関係者が集まって議論する必要があります。TAPはそれを推進する場を提供する役割を果たすことになります。

 

 

 

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