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弾性限度内、すなわち0からAまでの間の弾性範囲では、力を加えて変形させ(応力を加えてひずみを起させ)、また力をとり除くと(応力を0とすると)変形(ひずみ)が全然残らない。
第1.4図で説明すると、0からX点まで応力を加え、つぎに力をとりのぞくと、Xから同じ線を伝わってひずみが減じ、0点に帰る。これを弾性変形という。鋼船の各部分も航海中にこのような応カを受けている間は、外板の凹みも、肋骨の曲がりも起こらず安全である。
弾性限度を超えて応力をかけると、弾性変形に加えて塑性変形を起こすので、応力をとりのぞいても、ひずみは零にならず、塑性変形の部分が残る。
第1.4図で0からYまで変形させ、応力を零にすると、YからZにもどり、0Zだけの塑性変形(永久変形)が残る。船舶の航海中にこのような応力がかかってはならないが、逆に造船所で鋼板にカーブを付けたり、折り曲げたりするときは、この塑性変形を利用している。このように常温状態で大きな力をかけて鋼材に塑性変形を起させることを冷間加工という。このときに、熱を加えてやれば、鋼材はあめのように軟らかくなり、あまり力を加えなくても塑性変形をする。これを熱間加工という。また鋼板を線状に加熱して任意の形状に曲げることができるのも、熱による膨張と、塑性変形を巧みに利用しているのである。
つぎに鋼材を低温(0℃〜−20℃以下)にし、試験片に切欠きを作って、引張試験または衝撃試験を行なうと、第1.5図に示す点線のように、低い応力でしかも伸びがほとんどなくてガラスのようにもろく破断する。これをぜい性といい、これに対して伸びを伴う粘い性質をじん性という。この低温ぜい性は、鋼材にリン、イオウなどの成分の多いとき、低温のとき、鋭い切欠き(溶接欠陥など)が存在するとき起こりやすい。船が突然真二つに折れて沈んだなどという事故は、このぜい性破壊が原因となっていることがある。大型船の厚板の部分にはぜい性破壊の起りにくい溶接構造用鋼(第1.2表SM41A〜C)を使うべきである。また、LNG(液化石油ガス)タンカーのタンクなど極低温の場合にはニッケル鋼、ステンレス鋼またはアルミ合金など、ぜい性破壊を起こさない材料を使用する。
 

 

第1.4図 弾性と塑性

 
 
 

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