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鋼材で作った構造物(船、橋など)は通常の使用条件では弾性限度内で使用しなければならない。もし何かのはずみで大きな力のかかった場合(衝突、座礁)にも、少なくとも塑性範囲内に止まって、凹んだり、曲ったりしただけで破断(破孔)しないことが望ましい。もしここでぜい性破壊を起すと瞬時に全体が破壊して大惨事となる。
塑性をもっている(じん性がある)ということは、上に述べたような過大な力を受けたとき、その場所だけが伸びて力を逃がし、破断に至らせないという重要な性質である。また、さきに述べたように加工の際にも必要な性質である。高温となると第1.5図破線のように粘り軟らかくなり、さらに加工がし易くなる。
 

 

第1.5図 じん性とぜい性

 
鋼材の強さで、もう一つの大切なものがある。それは繰返し力をかけると、その力の大きさと回数によって鋼材が弱くなることである。これを疲れ強さという。たとえば針金を折り曲げると一回では折れないが、数回くりかえすことで折れるような例がある。この場合は塑性変形を起すような高い応力を加えているので、数回のくりかえしで折れるのであるが、応力が低いと何万回、何十万回くり返して、やっと切れるようになり、さらに応力を小さくすれば百万回〜千万回(これを106回、107回という)も繰返しても折れなくなる。この限界の応力を疲れ限度といい、静かに連続的に引張った場合の破断応力(極限強さ)の1/2〜1/3にも下がる。したがって、機械台、船尾のプロペラ附近の振動をひどく受ける部分では、部材の寸法を増して応カを低くしておかねば、損傷を生ずるおそれがある。ましてこの部分は溶接がし難かったり、曲げ加工の程度の高いところで、鋼材も弱くなっていることが多いので注意が必要である。
どれだけの応力では、何回の繰返しに耐えるかの限界を示す曲線を疲れ限度曲線(S−N曲線)といい、第1.6図に一例を示す。図中の線の下方では破壊せず、上方では破壊することを示している。船体の寿命を20年とすると、20年間に波浪による応力のくり返し数は1?s/?o2の応力で大よそ106〜107(百万回〜千万回)、10?s/?o2の応力の程度で103〜104(千〜万回)と推定される。応力集中率(平均的な応力より、開口附近の部分の応力が高くなっている度合)を3
 
 
 

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