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4.わが国のビオトープ整備にみられるさまざまなタイプ

 “多自然型川づくり”の方針が出されてから、わが国でも、全国各地の河川改修事業の中でビオトープづくりにも関心が払われるようになった。そのほか、公園、住宅団地、道路などの建設にともなうビオトープづくりもあるし、中には企業が、事業所の構内環境整備の一環としてビオトープをつくり、地域の住民に開放している事例もある。このような傾向は、まことによろこばしいことであるが、わが国のビオトープ整備はまだ始まったばかりなので、その仕事の基礎である前回述べたような野生生物の生息の場あるいは環境というものに対する理解には、まだいろいろ問題がある。そこで、これまでにみられるビオトープ整備事案の傾向を、おおまかに次のようないくつかのタイプに分類し、それぞれの特徴と問題点について考えてみたい。ただし(5)はこれまでにみられたタイプではなく、今後のために重要と思われる課題についての提案である。
 (1)“あなたのために世界はあるの!”型(特定生物期待型)
 (2)“みんな集まれにぎやかに”型(自然学習園型または箱庭型)
 (3)“何事のおわしますかは知らねども”型(自然群集期待型)
 (4)“あとは野となれ山となれ”型(自然過程委任型)
 (5)“立ち入り覗き見ご法度”型(聖域設定型)

1)“あなたのために世界はあるの!”型(特定生物期待型)

 このタイプのビオトープ整備は、ある特定の生物に思いをこめて、ひらすらその復活と生息をねがって環境整備をする行き方である。ネーミングは、一昔前に若い女性歌手が歌った、騎りの時代の到来を思わせるような歌の題名を借用したものである。
 このようなビオトープづくりでは、たとえば各地でおこなわれたゲンジボタル生息地の再生事業などにみられたように、その生物や、その餌となる生物(この場合はカワニナ)の生息には特別の関心が払われ、時にはとんでもない遠隔地からの移入がおこなわれることもある(これは、たとえ“同種”の生物であっても、“生態型”の地理的分布を混乱させるので好ましくない)。そして中には、目的以外の他の生物には無関心が、ひどいときには邪魔者扱いするような場面もみられ、特定の生物の“野外飼育場”づくりに陥ることもないとはいえない。こうなると人間のエゴの押しつけであって、とても野生生物のためのビオトープづくりではなくなるし、またその生物の生息を維持するための特別の努力がないと、長続きも難しいだろう。
 いうまでもなく自然界のすべての生物は、その生物ただ1種だけで生きているのではない。その生物が小活してきた環境の中で自然の成り行きとして共存してきた動植物の多くの種との間で、い

 

 

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