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2.ビオトープとは

 ビオトープ(biotope)という言葉は、ドイツ語(Biotop)に由来し、一言でいえば生物が生活し、生息する場所(または環境)のことである。わが国の生態学用言吾の“生息場所”または“すみ場”にあたり、また外国ではhabitat(英語)、Lebensraum(独)も同様に使われることもある。しかしこれらの意義を区別して、“ハビタット”または“レーベンスラオム”は生物の個体または個々の“種が生活する場所であり、“ビオトープ”は、たとえば砂漠やブナ林とか、あるいは湖の沿岸帯というように、はっきり境界線が引けるわけではないが、あきらかにまわりと区別し類型化できる生息環境、あるいはそれらに依存する生物群集が生活している場所、とする場合もある。このような州語の意味についてさらに詳しく知りたい場合は、例えば「岩波・生物学辞典」などを参照されたい。
 なお、ビオトープは、植物と動物に共通の概念であるが、動物を意識して使われる場合が多い。
 さて、ビオトープは、生物が生活している場所であるといっても、それは例えば、人間によるさまざまな管理と手助けのもとで熱帯魚が生きているアクアリウムのような場所とは意味がちがうと考えたほうがよい。
 すべての生物は、進化の過程で獲得した遺伝的な特性として、“種”ごとにちがった生活上の要求をもっている。ビオトープというのは、生物がこのような要求にもとづいて、自分の力で、食物または栄養をとり、代謝し、成長し、必要に応じて隠れ、眠り、移動あるいは越冬し、子供を生み・育て、“種”を維持していくが保証されている空間または環境のことである。
 しかも、植物であれ動物であれ、われわれの目に映る対象は“個体”であるが、彼らが種の健全な永続のための多様な内容をもつ遺伝子プールを維持するには、一定の大きさの個体群(繁殖集団)が必要である。また、自然界においてこのような個体群としてはじめて存続できる生物のそれぞれの種は、いうまでもなくただ1種だけで生存できるものではなく、他の多くの“種”と直接間接のさまざまな生態学的な関係をもって形成される“生物群集”の一員でなければならない。そしてこのような生物群集は、それを取り巻く化学的(物質的)および物理的な環境と、エネルギーの流れや物質の循環をとおして“生態系”と呼ばれる機能系を形成することによって、はじめて存続可能な実体となる。
 あらゆる生物は、その生活を支えているこのような生態系の一部としてのみ生存が保証されているのであり、ビオトープの保全は、このような生命維持系の組織化のすべての段階について考えられなければならない。

 

 

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