
河川整備における生態学的配慮
従来の河川整備のあり方は、整備後に利用する者の立場が中心であるため、必然的な人間の思考範囲で行われてきたといってよい。一例であるが、「水辺に魚が見られることは自然である」という発想から「魚が多く見られればよい」という直感行為で推進されてきた。その結果、その水環境に生息する在来種の検討や潜在量の検言立は行われず、フナやコイなど比較的非生産的な水環境にも強い種や視覚的な存在感の強い錦鯉などの放流がどこの河川でも整備の一環として行われてきている。本来の移備行為は、在来種の生産量の向上を図るような対策や、減少の原因を追求し復活が測れるような環境再生の対策面がもっと検討されるべきである。見かけの河川整備は長続きのしない自然再生といえるのではないだろうか。 河川改修の目的は治水と活用の側面から実施されることが第一なので、中小河川の場合はほとんどが自然の中にある「川」本来の作用効果が検討されるまでもなく、いわゆる安全で定量性の高い治水目的と排水路的な活用目的で進められてきた。河川工学的な理論に基づく改修法は、治水における安全性という面で優れているが、三面護岸にみるような改修環境は自然界の生態系を考慮した方法とはいえない。また大型河川では蛇行を少なくし、流路の均一化を測る改修工法が各所で行われるが、これもまた多くの生物にとっては複雑な生活環境を単純化されることになり、ここでも生態系は破壊されるといえる。また河川は上流から下流へ継続する水系として存在するので、河川改修の行われる場所・期間・規模・工法などによって地域ごとの生態系に影響をおよぼす。魚類の側面からは、産卵期・産卵場所・親魚や幼魚の湖河や降河時期・進路などに注意が払われなければならない。これらの河川改修要因はその河川での総体的な再生産力に大きな影響をあたえる。いくつかの現況からみて、改修中の流出土砂の移動形態と量は、多くの河川生物の生活生態に強い影響を与えている。 自然界における生物の存続形態は単一種で構成されることは不可能であり、一般的には「利用されたり利用したり」という形で相互に関連をもっている。また生活の場としての環境が多様であればあるほど、そこに生息する生物の生活形態も多様化し、やがて独特な遺伝子集団によって多様な種に分化してゆく。質的に豊かな自然とは、多様な環境に生息する多様な種の存在があることと考えられる。河川において「自然性」を考えた場合、現存状態が良質な自然であればできるだけ保全するように努力し、改修や整備が必要な時は環境と種の利用形態の側面を重視した多様性のある場づくりが必要である。またここでいう多様性とはあくまでもその地域に生活の基盤をもっている生物群で構成されていることが重要なことであり、例え同一種であっても地域の異なる遺伝子集団や外来種の移入などによる種の多様化は避けなければならない。 生物の現存量は、ある一定の環境容積の中にどれだけの種が生息するかにより個々の種の現存量
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